わたしだけの感情

私にはある特異な体質がある。それは…


「おはようナナミ! お、今日は眠そうだね~!!」

「うるさいよチエ、朝なんて誰だって眠いでしょう」

「あはは、毎朝のことながら、今日は眠い時に出るあの小さい泡みたいなのが出てたからね! ほんと、ある意味すごい体質だよねー」


そう、私には感情が誰にでも視覚化できてしまう体質らしかったのだ。感情の視覚化なんて大袈裟な言い方しているけれど、分かりやすく言えば、怒った時にはくの字が向かい合ったようなムカマーク、落ち込んだときには黒いまがたまのようなどよ~んとしたあれが見えてしまうようだ。そう、漫画でよく見るようなあんな表現だ。他の人には見えているらしいんだけれど、私にはそれが見えていないのだから腹立たしい。


「でもなんか逆にかわいそうだよね。自分は今こんな気分ですっていうことがすぐ相手にしられちゃうんだから」

「そうよ、私の身にもなってみてよ。この体質のせいで今まで出会った人には絶対からかわれるんだから」

「大変さは私が一番よく知ってるよ。それでも私はずっとナナミのこと見てるけど、全然飽きないけどな」

「そりゃあ飽きはしないでしょうけど…」


チエは、小さい頃からの親友だ。私の感情は生まれつきで、小さい頃には周りからよく気味悪がられたものだ。しかし、このチエだけはそれを面白がって私によくついてくるようになり、そこから仲良くなったのだ。


「全然飽きないよ! だって驚いた時は!マークが出て、悩んでたり分からないことがあったりすると?マークが出るんだよ」

「それはもう何回もチエが言ってるから分かってるよ、耳にタコが出来るほど聞いたし」

「あと、驚きの度合いが大きいほど!マークもそれに比例しているかのように大きくなるんだよねー! 不思議だよねー!」

「その件について検証しようと、私にドッキリを毎日にように仕掛けようとしたこと、まだ忘れてないからね」


そう言って私はため息をついた。


「でた! ナナミのため息!! あの風みたいなやつが口から出るってすっごいよねえ!!」

「…いや、ため息って感情じゃなくない?」

「いいんだよそんなこと! きっとため息も感情なんだよ!」


朝から騒がしいやつだ。でも、その明るさに私は助らているのだけれど。さて、今日も一日頑張ろうかな。




キ――――ンコ――――ンカ――――ンコ――――ン




授業がやっと終わった。授業中も後の席のチエがうるさかった。


「そんなこと言われてもしょうがないじゃん、面白いんだから。問題が解けるたび電球マークが頭上に現れるんだよ。笑わないほうがおかしいって」

「他の人はもう慣れて何にも言わなくなったけどね…っていうかチエはいつまで同じことで笑ってんのよ」

「えー、やっぱさ、普通じゃないことが普通に起こっているっていうことを普通にしたくないっていうかさぁ」

「うっ…チエってそういうとこあるよね…」


たまにチエはこういうことを言うから面白い。ただのその他大勢じゃないっていう感じがある。


「まあまあ、そんなことより早く帰ろう! 今日はカフェで勉強するって約束だったでしょ!」

「そうだったね、じゃあ帰ろうか」


二人で学校をあとにしようとしたところ、後ろから声が聞こえた。


「おーーーーーい! ナナミ!」


この声は…と思って振り返ってみたら、やっぱり、佐藤君がいた。


「よかった、まだ帰ってなくて。これ、昨日借りてたやつ」

「あ、あぁ、ありがとう…」


隣でチエがニヤニヤしているのが気になった。貸していたものを返してくれた佐藤君は、それじゃあと言って行ってしまった。


「いや~、やっぱり面白いなあ、特に佐藤君を前にしているナナミを見るのは」

「う、うるさいよ、仕方ないじゃない」

「ばればれだよ、顔は真っ赤になって顔の真ん中あたりに赤い斜線が何本も刻まれているんだから、照れているときによく見るやつだよ」

「わざわざ説明しなくていいから! もう…」


チエの言う通り、私は佐藤君のことが好きなのだ。優しくしてくれて、私の体質をバカにしたりしない。そんなところに惹かれてしまった。


「ねえねえ、いい加減告っちゃいなよ、佐藤君にもばればれなんだよ?」

「そうなんだよね…もうそろそろいいよね…」

「おおおおおおおおっ!? ついにナナミもその気になった!?」


そう聞いたチエは目を輝かせた。心なしかキラキラしてる模様が周りに見える気がする。


「でも私から言っといてさすがにいきなり告白ははやいと思うんだ! だから、まずデートに誘ってみたら?」

「そうね、まずはそこからね。うん、頑張ってみる」

「おおー! 応援してるよー!!」


それでその計画はどうするか、カフェでじっくり話し合い、明日の放課後に誘ってみるということになった。





キ――――ンコ――――ンカ――――ンコ――――ン





学校も終わり、ついにこのときがやってきた。私の心臓は今まさに飛び出しそうな勢いだった。


「すごい緊張してるね…いつになく顔に出てるよ。落ち着いて落ち着いて」


そう言ったチエは、私の手を軽く握ってきた。おかげで少し落ち着いた気がする。


「ありがとう、チエ。それじゃあ行ってくるね」


―――――――――

――――――

――――


「ただいま…」

「うおっ、ナナミ…その感情は…だめだったみたいだね…」

「うん…なんか彼女がいて、その彼女がそういう誘いは断れって言われてるらしくて…」

「あらー、それはそれは…まあ、とりあえず、お疲れ様」


そういったチエは私を優しく慰めてくれた。私の恋はここで終わったのだ。そう思った瞬間、どっと涙があふれてきた。その日はずっと泣いてしまった。





キ――――ンコ――――ンカ――――ンコ――――ン





昨日の失恋はあったものの、いつまでも引きずっていられない。今日からまた頑張っていこうと朝のHRが始まった。どうやら今日は時期に合わない転校生が来るようだった。その転校生が教室に入ってきた。


「初めまして、〇〇高校から来ました―――」


自己紹介を始めた転校生を見た時、あることに気が付いた。


「ナナミ、あれって…」

「チエ、もしかして…」


見間違いではない、その人は緊張しているからか、顔の周りから汗のようなものが出ていた。そう、漫画で見るようなあの…


「あの人も! そうだよナナミ! ナナミもあんな感じなんだよ!」

「私だけじゃなかった…っていうか、私もあんな感じなの!?」


転校生も自分と同じ体質の人と会うのは初めてみたいで、仲良くなるのには時間がかからなかった。


ことはとんとん拍子のように進んでいき、私たちは同じ大学へ進学して、結婚した。


赤ちゃんもおなかに宿り、出産することになった。


出産のための手術が行われた。


とても大変だったが、なんとか無事赤ちゃんを出産できた。


看護婦さんが、元気な男の子ですよと言って、赤ちゃんを私に見せてきた。


その赤ちゃんは、泣きわめいてるときに出るような、大量の汗みたいなものが顔の周りに現れていた。


「えっ!? この体質って遺伝するの!?」

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