僕は歩く

ある日突然、空が大きくうごめいた。大地は揺れ建物は崩壊し、けたたましい轟音と共にそれは全てを飲み込んだ。その瞬間、僕の目に飛び込んできたものは、辺り一面に広がるとっても綺麗なルビーのような結晶たちだった。


僕は興奮せずにはいられなかった。これから全てが無くなっていき、僕だけのものになっていく予感がしたからだ。そしてやはり予感は的中し、ここは僕だけのものになった。辺りに広がるルビーを踏み潰しながら、リズムに合わせて歩いたりした。


僕は興奮せずにはいられなかった。今なら何でも出来そうな気がした。ルビーはたしかに綺麗だが、それを吐き出すものは不快なので、見つけてはサファイアへ投げ捨てた。でも、さすがに多すぎる。疲れた腕を下ろし、投げ捨てることはやめにした。どうせなにも残らなくなる。再び目的もなく歩いていくことにした。


時代は末期、文明も生物も滅んでしまったこの星で、今日は何を見ることができるだろう。


歩き続けるだけの日々が続いた。それでも僕は歩くしかなかった。なんたって今が一番暮らしやすい、住みやすい環境なんだから。


長い長い上り坂に差し掛かった。これを歩くには骨が折れるなぁなんて思っていながらも、僕は歩くしかなかった。


上り坂を歩いていると、だんだん向こうの景色が見えてきた。その景色の先には、なんということでしょう、大きな山があった。これは登らずにはいられない、頂上で見る景色はどんなに綺麗なんだろう。


大きな山だけあって、登るのに何日も費やした。山を登る途中に、休憩できるような小屋があった。誰もいないし、ここにはルビーも落ちていないから、遠慮なく使わせてもらうことにした。


久しぶりに横になった気がする。思うとあれからずっと歩き続けていたのかなぁ、途中で寝ちゃってたのかなぁ、そんなことも分からなくなってきていた。


休憩も十分とった。さあ出発だ。休んだせいか足取りも軽い。今なら走り出せそうだ。走っちゃおうかなぁ、でも疲れちゃうしなぁ、いいや、疲れたなら休めばいいよ。そう思った僕は、思いっ切り頂上に向けて駆け出していった。


だめだ。やっぱり疲れてしまった。また丁度よく小屋があったので、やはりそこで休憩しよう。


一体どれくらい日が経ったのだろう。山の頂上を目指して、どれくらい日が経ったのだろう。あと少しだと思うんだけどなぁ。それより頂上で見る景色はどんなに綺麗で美しいんだろう。みんな絶対見たことない景色なんだろうな。ふふふ、僕だけが見ることの出来る、特別な僕だけの景色。そう思ったら、疲れなんて吹っ飛んだ気がした。


体も軽くなったけど、焦るのはよくない。また体力を無駄に使うだけだ。ゆっくり行こう。なんて考えて歩いていたら、山頂まであと少しという看板が見えた。ついにここまで来た。早く景色が見たいと、おさえつけていたかけどだめだった。僕はやっぱり駆け出していった。


頂上に着いた。さあ、素晴らしい景色を目に焼き付けようじゃないか。顔を上げてみたら、そこに広がっていたのは、真っ黒な世界だった。


違う。僕が見たかったのはこんな景色じゃない。ルビーのような赤い宝石、サファイアのような青い宝石、エメラルドのような緑の宝石、トパーズのような黄色い宝石、ダイヤモンドのような透明な宝石。それらが全て混ざり合った美しい景色を期待していたのに、一体これはなんなんだ?


まるで灰のように黒くくすんでいるじゃないか。僕が求めたものはこれじゃない。そのために歩いていたのじゃない。そう思っていたんだけど、もうここには綺麗な宝石は見つからないということを悟ってしまった。


その瞬間、僕は山から飛び降りた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る