君が降る街

星永静流@ホシ

第1話君が降る街

 君が降る街

            the134340th(ホシ)


 ここは奇跡が降る街だ。


 新しい命がうまれて、錆びついた鉄くずは、捨てられる。食べた後のものや、年老いたひとは、全て燃やされて再利用される。

 新しくうまれたものは、それを食べることが許されている。


 くだらない。


 カーテンが中途半端にあいていたから、それをきっちり閉めるために、僕は立ち上がった。そのとき外は今、雨が降っているのだと、初めて気が付いた。


 もしも晴れていたら、この奇跡が降る街に、三桁満点の答案用紙を渡してあげたい。

 でも、今日は雨だ。残念ながら、三桁満点の答案用紙を渡してあげることは、できない。


 しとしとと、まるで嗚咽を我慢しているかのような、そんな雨の声を聴いてみる。

 この雨が、夢が、奇跡が、君が、全部僕に降り積もればいいのに。


 どうして、僕には何もないんだろう。夢も、奇跡も、君も。どうして、何もなくしてしまったんだろう。


 悲しいんじゃない。涙を流しているわけでもない。ただ、ただ、やるせない。


 どれだけ明るい歌を歌ったって、この気持ちは晴れることはない。でも、悲しい歌を歌ったって、報わるわけでもない。


 きっと僕は僕を殺したんだ。


 肉体を、感情を、心を。


 あぁ、ここは夢が降る街だ。


 ひとの夢が、成し遂げたいことが、まるで手に取るようにわかる。


 金、地位、名誉。


 くだらない。

 あぁ、くだらない。

 本当に、くだらない。


 滑稽な夢の戯れだ。

 早く死にたい。でも、死にたくない。

 死ぬのは怖い。でも、生きるのはもっと怖い。でもこれは、きっと君のせいなんかじゃなくて、本能的なところで怖がっているから、それが余計苦しい。


 あぁ、君が降る街だ。


「世の中には、知っているのに、知らない振りをして、ひとを試そうとする、頭のいい人がいます。

 でも、そういうひとより、私はあなたみたいなひとが好きです」


 にこっとまるで音が出るように、笑って言ってくれた彼女は、今、何をしているだろうか。


 幸せにやっているだろうか。なぜ、僕が幸せにしてやることが、できなかったのだろうか。


 クシャッ。僕は飲みかけのビールの缶を、握り潰した。

 少しだけ中の酒が零れ、手にかかる。


 幸せも、愛情も、思い出も、全部金で買える代物。


 もっと明るい小説が読みたい。

 もっと明るい映画が観たい。

 もっと明るい歌が歌いたい。


 僕を救いたい。何より君を救いたい。


 僕を救って、君を救って、そして晴れた日の夜空の街を、星が降る街を、奇跡が降る街を、君とみてみたいだけなんだ。



                               【完】




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