妻サイド

布団の中で着替えるまでは良かった。駄目だったのはタイミングと、プレゼントの隠し場所をベランダにした事だ。


窓を開けると旦那が起きてしまう。だから、彼がトイレに行った隙に布団の中へと移動させようとしたのに、超速で帰ってきてしまった。トナカイのコスプレまでして。なぜトナカイ?

状況は一瞬で理解出来た。つまり『サプライズ被り』。昼間に交換したプレゼントもお互いダミーだったのだ。喜んで損した。


コスプレする時間短くない? とか思ったりしたのは逃避だった。何せ、私はいま窓から侵入している最中の不審者なのだから。旦那が手に持っている箱を投げられかねない。


そして、旦那はおずおずと口を開いた。





「つ、月が綺麗ですね……」






何だこのトナカイ。お前が不審者か?



はっ! 違う……これは私と認識している事を伝えるついでに、先日作家デビューを果たした私を試しているのか? 先にカクヨムで大賞をもぎ取ったから先輩気取りなのか旦那よ!

でも、いくら何でも『死んでもいいわ』なんて返せない。考えろ、考えろ……。これだ! もう寒いからこれでいい!



「あなたは、月を手にしている」



何だそのあひる口の困り顔!!

まさか理解できないのか? お前ちょっと馬鹿だけど作家だろう! もうすぐアニメ化するんだろう!


はぅあっ! もしかして原作の照れ隠しを表現している顔なのか? 理解した上でその更に向こうへと世界を広げたのか!


完封負けをした凍傷間近の私の手を掴み、旦那は優しく引き入れた。


「寝よっか?」

「そ、そうね……」


サプライズはやめて、明日普通に渡そうという提案だった。













それから一時間。旦那も眠ってしまったみたいでイビキを立てているけど、私は少し悔しくて眠れなかった。



実は、毎年クリスマスは旦那からサプライズをしてくれていた。だから、今年は私からしたかったのだが、まさか結婚五年目にして彼がこの王道パターンを持ってくるとは思わなかった。初心者の私とバッチリ被ったわけだ。



何気なく旦那の顔が見たくて、寝返りをうってみる。いつもより疲れているのか、イビキが大きいような……。






「…………」

「…………」





私の枕元にプレゼントを置こうとしているトナカイ男と目が合った。




「グゥゴゴゴ! ンゴー!」

「いまさら寝たフリするな!!」



馬鹿な旦那が抜け駆けしないように、そのまま私の布団に引きずり込んでやった。

抱き合ったまま寝るのは久しぶりだったけど、この時期は寒いからちょうどいいかもしれない。

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サドンデス・イブ 琴野 音 @siru69

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