サドンデス・イブ
琴野 音
旦那サイド
妻と二人きりの素敵なクリスマスを過ごしていたのに、どうしてこうなったのだ。
雪の降り止まぬ夜。妻が寝たことを確認してから急いで外へ出て、コスプレをした。
いや、これには色々と設定がある。妻が寝巻きにしているトナカイの着ぐるみパジャマに合わせて、僕もトナカイになる。そして、こっそり枕元にプレゼントを置いて朝を迎える。プレゼントと僕の姿に驚いた妻にこう言ってやるつもりだった。
「サンタさんが来たんだね。僕じゃないよ? だって僕はトナカイじゃないか。キミと
妻は爆笑。サプライズ成功。
そのはずが、コスプレを終えて寝室に戻って見れば、赤い服に身を包んだ女がプレゼント片手に窓から入って来ようとしている所に鉢合わせてしまった。
「…………」
「…………」
冷たい風が部屋を凍らせる中、お互いに言葉を発する事が出来なかった。
女の正体はわかる。寝ているはずの妻だ。赤い服もわかる。サンタのコスプレだ。なぜ、なぜサンタになってしまったんだ君は! これじゃあ僕はペットじゃないか!
だけど、問題はそこではない。なぜ起きているのか、なぜ窓から入ってきたのか。僕の頭は混乱していた。
ひとまず、僕が彼女のことを妻だと認識していると伝えなければならない。愛すべき妻であるとわかっていることを。
「つ、月が綺麗ですね……」
何を言っているんだ僕は! 愛するとか考えたせいか! このシチュエーションで告白はないだろう!
ほら見ろ、彼女も完全に固まってしまっている。カクヨムのコンテストで作家デビューを飾った彼女の事だ。頭の中は数多の思考で埋め尽くされているはずだ。
沈黙のサンタ。沈黙のトナカイ。
静寂はついに破られる。
「あ……」
「あ?」
「あなたは、月を手にしている……」
なんだその返し! 聞いたことがないぞ!
月を手に……まさか……。バレてるのか? 僕の手に持っているプレゼントの中身が月を散りばめた柄の新しいパジャマだと知っているのか? お見通しだと言っているのか??
いや、それよりバレているのならこのやり取りは分が悪い。作戦変更だ。この場は凌いで後で新しいサプライズを作る。これしかない。
徐々に震え始めるサンタさんを引き入れ、窓を閉めた。出来るだけ穏やかに、焦っていることが悟られないように。
「寝よっか?」
「そ、そうね……」
お互いコスプレのまま、それぞれの布団の中に潜り込んだ。何のやり取りだったのか全く理解できないまま、夜は深みを増していった。
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