re,Balance(β版)

文野ねむ

第1話 オワリノハジマリ

「あれからもう三年だね」

僕は誰もいない墓地で十字架の前に語りかける。

そう、あれはまだ僕が中学二年生の時だった。僕の記憶から一生消えることのない出来事だろう。


2027年12月25日、巷はクリスマスで賑わっていた中の出来事だった。

僕は彼女の綾川あかねとのクリスマスデートの待ち合わせで集合場所のオープンカフェで彼女を待っていた。

12月の割には暖かく期待していたホワイトクリスマスははかなく散ってしまった。

複雑な気持ちの中、僕はまだほろ苦い珈琲をすする。

そうしていると時計の針はとうに集合時間を指していたが彼女の姿は見当たらない。

どうせいつも通りの「電車に乗り遅れた~」の体の遅刻だろう。

僕はそうしてまたにがーい珈琲をすすりテラスから見える噴水の広場を眺めると今朝のプレゼントに飛び跳ねる子供とそれをほほえましくに眺める両親、クリスマスなんて関係なしに忙しく会社に向かうサラリーマン、ニコニコと手を繋ぐカップルは僕と彼女と重なった気がした。

そしてその後ろにはバタバタと一際目立ちこっちへ走ってくる彼女の姿。

僕は呆れながらも笑顔で手を振る。

さすがに20分遅刻はまずいと苦笑いで手を振り返しこっちへ向かってくる彼女。

この何気ない綻びがどれほど幸せか、そんな幸せが一瞬にして消えていく事もこの時は思ってもいなかった。

そこからの記憶はない。気がつけばうめき声と怒鳴り声の不協和音が響く薄暗い病院のベットの上だった。すぐに分かったのは僕の左腕の感覚と彼女の姿が無かった事。

この悲劇に泣き叫ぶ暇もなく僕の意識は遠のいていった。


それから三年、僕の左腕は義手でまかなえたものの彼女の姿はない。

目の前にある墓には彼女は眠ってない、ただの形だ。

僕と彼女に一体何があったかを知ったのは入院中の一回目の検診の時だった。

先生から聞いた話によるとゴミ箱の中にテロリストが仕掛けた爆弾が爆発、ごみ箱付近にいた人は跡形もなく消えその周りにいた人も即死だったそうだ。

僕は爆風で吹っ飛び店の中で命からがら助かったものの、おかげで左腕まで飛んでいってしまった。

それに止まらずそのあと東京全都は大規模なテロ襲撃を受け2028年4月1日、三か月以上にもよる戦いでやっと鎮圧された頃には国の機能は停止、つまり崩壊していた。僕は丁度その一か月後頃に目覚めたそうだ。

話を聞き終わり両親と彼女の安否を先生に聞いた。

両親は幸い何もなく県外の集団避難所で生活しているそうだ。彼女に関してはそんな人はどこにも運ばれておらず遺体、現在の身元もわからずその2日後に彼女は死亡とされた。

僕はその知らせを聞きこの悲劇の始まりから初めて泣いた。泣いて泣いて泣き叫びどこにもぶつけられぬ怒りと遠のいていく最愛の人の存在にもがき苦しみ悲しみの中で長い絶望の夜を越え朝を迎えた。



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