足し算式文体と引き算式文体
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884323410
『小説向き文章の原則と基礎技術』 ←これお勧め。ただし、中級者以上。
中級以上の指南なので、ある程度身に付いたモンがないと、解かったよーな気になって終わるだけなんで。読んだだけで身に付くなら何も苦労はないのですな。たぶんね、成長の度合いが違うのは実験するかどうかが原因。
自分でもやってみる。コレ大事。
で、鳥山氏と私の考えはちと違います。私は引き算方向の文章と足し算方向の文章でまず大別します。テンプレとかラノベ文とか説明文とか報道文とかと、描写とで分けます。描写だけは足し算方向で理屈が動くので。他はみんな引き算。
そこ踏まえた上で、似たような話をしたいと思います。繰り返し学習です。読んだ後だとちょっと上の話が解かりやすくなるかもです。
描写には種類があります。情景描写とか心情描写ね。そんで、比喩ってのも私は描写の括りに入れてますが、これも種類が幾つかあります。私は、直喩と他という大別しかしてませんで、その辺りは上のエッセイのが詳しいのでそちらへ譲ります。
なんで二分割しかしないかと言えば、野球の球ですね。ストレートか変化球かという違い。変化球にもフォークとかシンカーとかありますが、直球か曲がるかでまず分けた方が解かりよいかと思ってて。同列にすると理解がややこしいんで。
描写ってのは、どんどん細かいトコを捉えていく表現の総括と考えてます。
次に、引き算方向の文章ですが、これも種類があります。ざっくりと三種で分けてます。引き算の文章ってのは「端折った文章」です。だから描写とは逆と捉えて、まず端折り構造の文章と描写で分けたんです。
まず一つ目。論文式。
専門用語とか理屈とかを当たり前に並べて事前学習必須みたいな体裁で書かれた専門書なんかがそうですが、これはベースの知識を共有してる人には説明不要な部分は、鬱陶しいから端折って書いちゃおうっていう方式です。共有圏内の人々にとっては解かりきった事柄なんですね、門外漢にはチンプンカンプンでも。
んで、これは「なんかスゲーし、なんとなく解かる気がする=賢いなこの人!」という効果を与えます。小説で使う場合はですけど。専門書の場合はそも読者絞ってんで、置いてく気満々ですわな。
司馬遼太郎とか京極夏彦とか、薀蓄を駆使した作品がこれに当たります。変化球では森見登美彦の文章などが語彙無双と呼んでいいと思います。
次が、報道文とかテンプレとか二次創作の文章ね。これも上記と同じくベースを共有した人向けに端折ってます。けど、上の論文型の端折りとは違うんです。別にスゴくはないんで。現実の専門性を端折ったものとコレを一緒にしたらヤバいです。
こいつについては先にたっぷり解説したんでもういいよね。論文式とは違うって事だけ留めといてください。
効果としては、どーでもいい話なんだけど書かないわけにいかないような部分を、読者にすぐに忘れてスルーしてもらいたいって時などには便利です。
SFとかファンタジーで、地球以外を舞台とするんだけどその背景世界の特殊さにあんまり目を奪われてほしくない、本題はそっちじゃない、という時に使うわけです。説明はしとくけど、それ主題にあんま関係ないんだ……のジレンマを解消するにはチョー便利です。
で、三番目に文豪の使う手段でお馴染みのヤツがあります。
聞いたことはあるでしょう、「余白や行間を読む文章」というヤツ。これは説明が難しいんで例文を書いておきます。
<例文>
「ひさしぶり、」
言えば彼は変わらぬ笑顔を私に向ける。
「おう、何年ぶりかな、元気そうでよかったよ。」
本当は同窓会のお誘いも受ける気はなかった。ずっと帰省なんかしないで独り東京で暮らしていくつもりだった。こっちの所在を探し出して、しつこく連絡をくれる幹事に根負けしたようなもので、本当に帰るつもりなんかなかった。
嫌な感じに間が空いて、誤魔化すようにビールに口をつける。言うつもりもなかった言葉がせり出してくる。
「結婚したんだって?」
一度は喉の奥につっかえた。無理やりに押し出した不自然なタイミングだ。
声の震えに気付かれませんように。
「去年かな。お前にも式に出てほしかったのに……、連絡先くらい教えとけって。」
彼はまぶしく笑った。鼻の奥がツンとした。
こういう感じのヤツですね。効果がイマイチなのは私の腕が足りんせいです。
(10行そこらで書けるかーい!)
全編これで書くと立派にブンガクしますが、言わずもがなで高度ですんでこれで一冊書き上げようなんてのはムボー君です。頭がパーンするから止めましょう。解かる人には解かる、認知された高度技術ですんで多用すれば間違いなく差がつきますが、無理は止めときましょうね。で、これも端折りの文章なんですな。
あまりに徹底しようとして、かつての私小説は行き詰ってしまい、ハードボイルドもそれがために下火になりました。てくらいの曰く付き文章技術。非常にコントロールが大変でして、なんせまったく説明しませんので、誘導をしくじると完全に作者の意図と読者の読みが乖離します。
なので、普通は色々をまぜまぜして書くんです。覚えといてください。
論文式は説得力でぶん殴って煙に巻くのにチョー便利!
報道式はざっくり書いて気付かれぬようにスルーさせろ!
で、真の見せ場だけ、文豪式で読者に印象付けろ! て感じです。
全編を文豪式なんて軽く死ねますけども、一部限定パックで使う程度ならそんなに無理な技術じゃないんで。色んな文章の型を駆使し、足したり引いたり、端折りにしてもバリエーション豊かにやれば、読者も飽きない! ……はずです。
上記3つは基本的な端折り原理の引き算文章なんで、足し算になる描写と組むのはやはり難しいです。真逆ですから。文豪式や論文式はまだしも、報道式なんかは特に組み合わせるのが難しくなるんで、私は報道式を敬遠するんですな。
だって、報道式のあの端折りは、枝葉をばっさりやって要点だけを纏めた文章なので、性質的にも他のより異質になるんだもん。(無理とは言わんが)
こういう、性質の違う文章を、違和感なく繋げられることが『文章力がある』という事と私は思っとります。(そう、鳥山氏より厳しい基準なのです、私は。)
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