1-4 ギルドの名前はUnion Color

「市川さん、私…」


「サオリで良いわ、ユイちゃん」


『王宮側から話は来てるの。素直にゆっくり決めればいい』


サオリが凛とユイに言い、後を追ってリリーがにこやかに笑った。


『宜しくお願いします』


四人は王宮の側を離れ、陽光の射す場所へと向かう。

リリーが時々道を確かめ、指さして方角を示してくれた。


「距離があるからちょっとした話でもしましょうか」


そう言ってサオリは一つ間を開け、頷くユイに口を開く。


「この世界はギルドがいくつもあって、国籍やタイプ相性、パワーバランスで配属が決まる。

私達のギルドは、中心の城下町の端の外れ」


「町?」


『一般のドールの生活地です』


それだけ言ったスカーレットの目が遠くなった。


遠くでは人々がにこやかに笑い、ユイは彼らの姿を目にする。人間とあまり大差なかった。

中心から離れた道を四人は通り、森と町の境目へ進んでいく。


暫くすると木の家屋が、目の前に姿を現してきた。

まるで宿場。

二階建てで窓が見え、中庭らしき物も裏から見える。外側には金属の階段もあった。


「〈Union Color〉…」


「そう。ここが私達の活動拠点」


木製の看板に絵具で書いたような文字を読むユイに、サオリはギルドのドアを譲った。スカーレットは当然ユイだとばかりに歩を下げて、ユイはドアノブに手をかけた。


胸の高なりと少しの不安、浮き足立っている心を感じる。

転校生とはこんな感じだろうか。


ゆっくりとノブを回してやや重いドアをそっと開けると、いくつもの声が飛び込んだ。


『おっ!!』


「来た来た!」


声に遅れて木の空間が姿を現し、ユイの視界に飛び込んでいく。


場にいたのは二人の少年、二人の少女、一人の青年。

中学生らしき少年はブレザーを着て、茶髪に蜂蜜色の瞳をしている。体駆の小さい少女は黒のセーラー服を着ていて、藤色のボブと紫の瞳が目立つ。少女の方は小柄で、見たところ小学生だろう。

どちらも見慣れない服だったが、どうやら彼らの制服のようだ。


少年のもう一方はボーイスカウトのような服で、見た目は小学生程度。金髪に青い瞳が目立つ。

少女のもう一方はミニ丈のふわりとしたドレスを纏い、上品そうな雰囲気がある。十代後半ぐらいだろうか。紫がかった黒髪に、赤が少し入った紫の優しげな瞳をしている。

こちらの二人はやはり首にコアを下げていて、少年には黄、少女には紫の光が見えた。


ただ一人私服だったのは青年で、赤がかった黒の短髪を野暮ったく後ろで纏めていた。がたいの良い長身を動かしてサオリとリリーの方に近づく。


「この二人か?新入りさんは」


「ええ。赤音結衣ちゃんとスカーレット・ローズ」


青年は短髪を少し弄って、強面気味の表情でユイとスカーレットに向き直る。


「俺は鋼鉱太はがねこうた、コータでいい。長いか短いか解らんが…まあここでひとまず宜しく頼む」


そう言った彼は少し笑って、灰色の目を僅かに細める。強面気味の容姿が和らいだ。


『仮っつってっけど、オレらはそんなの関係ねーから』


「ぶっちゃけ加入当然っすしね」


『わたくし達もそうでしたし』


「…言われてみれば」


テーブル側の四人が口々に言った。

傍のテーブルにはスポーツバッグにリュックサック、校章付きのランドセルとそれとは別のスクールバッグが置かれている。彼らの荷物であるようだ。


頭数を数えたスカーレットが奇数に訝る顔をする頃、一人の青年の声がした。


『?…ああ! 来てたんですね』


割と高めの背の青年が、階段下から上がってくる。

淡い金髪に濃いグレーの瞳、整っている温和な顔立ち。縁のない眼鏡を掛けていて、白のロングコートを着込む中、白の革らしき手袋に、薄いグレーのマフラーが目立つ。


「終わったか、ロイ?」


『ええ。武器の調整は完了です』


彼はロイと呼ばれた。マフラーからは黒のコアが下がり、コータに親しげな笑みを見せる。


「これでメンバーは全員ね」


『戦いは?いつ頃ですか?』


スカーレットの問いかけにサオリが返す。


「今より少し遅いわ。ユイちゃん、お昼はもう摂ってる?」


_____


「すみません…ありがたいです…」


出された茶菓子と紅茶を頂き、ユイはひたすらに礼を言った。

素朴なクッキーが身に沁みて、紅茶が心身に行き渡る。思いの外空腹だったとようやくユイは自覚した。


『帰宅後いきなり召集だとわな』


『不可抗力ですからねえ』


金髪の少年とミニドレスの少女が同調し、自分達の紅茶を飲んでいた。

気恥ずかしいのか苛立ちなのかスカーレットは無言でカップを仰ぐ。


『意識が甘いと言いますか…我ながらかなり不覚です』


「気にしなくて大丈夫だよ?」


根を詰めそうな勢いなのでユイは慌てて彼女に言う。

酒場のようなカウンターからサオリは茶缶を取り出した。


「一度戻ってもいいんだけど、時間が乱れると危ないから」


『皆様どうして早いのですか?』


「来たばかり。長くはないわ」


セーラー服の少女が素っ気なく、スカーレットに冷たく返す。

すみませんとでも言いたげに、ミニドレスの少女が苦笑した。


「簡単に自己紹介でもするか」


コータの指示に頷いて茶髪の少年が手を挙げる。


「俺カズヤ。カズでも何でもいいっす」


『んで俺がその相方のエレクだ。頼むな』


カズヤと名乗った少年に、エレクと名乗った少年が小突いた。エレクからは青の挑戦的な瞳が覗く。


『わたくしはディーヴァです』


「スミレ。…ひとまず宜しく」


ディーヴァと名乗った少女は苦笑し、無愛想なスミレに目を移した。ディーヴァの髪を束ねるリボンと、スミレの紫のバレッタが揺れる。


「あとはお前だけだ、ロイ」


『今君が名前言いましたね』


白いコートの彼が切り返し、ユイ達に温和に笑いかける。


『改めて、ロイ…ロイ・インダストリアルと言います。どうぞ宜しく』


インダストリアルの名を持つ彼は陰を含む笑みで微笑んだ。

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