小説リレー企画『魔王が体育館に現れた 第八話』
西木 草成
第八話 必殺技のかっこいい言い方
「よっしゃーっ! 俺に続けっ!」
薩摩・
「行くぞっ! ザ・ベイビー・スクラッシュⅢ」
Ⅱといい、その攻撃方法は全くもって変わっていない。だが本当にこいつはどこでⅠ出したのだろうか。
「ウォオオっっ!」
高く飛び上がり、刀で地面に倒れている魔王の頭へと斬撃が放たれた。初手にしては上等。その調子で俺たちも進むしかないっ!
「俺らも薩摩に続けっ! 一気に畳み掛けるぞっ!」
薩摩の放った一撃により、全員が各々に飛びかかり魔王にとどめを刺そうとした。
その時だった。
「来るなっ!」
「....っ!」
埃舞う体育館の中心で薩摩の声が響き渡る。
「全員止まれっ! 何か様子が....」
次の瞬間、土埃の中から出てきたのは巨大な魔王の腕だった。
「な....っ!」
「っ、フック避けろっ!」
とっさの判断でフックに声をかけたものの、反応が1コンマ遅れ、魔王の腕の餌食となる。
「ぐは....っ!」
「フックっ!」
魔王の腕につかまり持ち上げられるフック、巨大な何かが土埃を搔き消し立ち上がる。それは先ほどのお色気作戦で倒れたはずだった魔王である。
「う....そ」
「なぜ....」
マノマノとジャンヌがあっけにとられその様子を見ている。それはそうだ、自分が体を張って魔王を気絶させたと思っていたのだから。そして、その魔王といえば右腕に薩摩、左腕にフックを握り仁王立ちをしている。魔王のその様子から見るに全回復をしているようだ。
「....くっ、しくじったか」
「くそ....っ! 離せっ!」
「薩摩っ! フックっ!」
苦しそうにもがく薩摩とフック。ここで近づいて助けようものならば、おそらく魔王は彼らを握り潰そうとするだろう。そうなってはならない。
絶対だ。
魔王の口に光が収束してゆく。おそらく、あの破壊光線の起動準備だろう。この戦況で俺を消しにかけるつもりか。
「マノマノ、ジャンヌ。下がってくれ」
「ちょ、勇者くんっ!」
「安心してくれ、考えがある」
俺が前に出るのを止めるかのように、マノマノが服の襟を掴んでくる。だがそれを制するかのようにしてジャンヌはマノマノを止めた。
「勇者、期待しているぞ」
「あぁ、二人は必ず助ける」
ジャンヌの声援に応え、前へと進む。そして、魔王と俺との距離が縮まり、ある程度近づいたところで止まった。
「さぁ、魔王。いや、
魔王は答えない。その代わりに光は口にどんどん収束してゆく。それは最初に放った一撃よりもはるかに鋭く禍々しい光だ。
「勇者殿....逃げろっ!」
「ダメだっ! 後ろの二人をっ!」
魔王の両腕に収まっている二人がそれぞれ俺に対して言っているが、そんな言葉に耳を貸す必要はない。
「おい、二人とも。よく聞いておけ」
「「?」」
「これが、本当の必殺技の言い方だ」
魔王から光線が放たれる刹那、誰もが絶望的状況だと思った中、俺は両腕を突き出しその必殺技の名前を叫ぶ。
『
魔王から放たれた破壊光線はまっすぐ俺に飛び、そして突き出された両腕を境に相殺されていくようにして光線が消えてゆく。
そして魔王が光線を打ち終わった頃に、そこに立っているのは無傷の俺、そしてその様子を見ているジャンヌとマノマノの姿だ。
「さぁ、どうする魔王。まさかこれだけじゃないよな?」
魔王は確実にうろたえている。だが、その顔は確実に
「二人を返してもらうぞ、魔王っ!」
ネクタイのタイピンを外し、それを右手に持って魔王へと向ける。
『
タイピンは光り輝き変形をし出し、それはやがて、白くスラリとした西洋剣へと姿を変える。それを片手に構えながら魔王の方へと駆け出していった。
「うぉおおっ!」
まずは右腕、薩摩を掴んだまま振り下ろされたその腕に一撃を与える。魔王の右腕はまるで豆腐を切るかのようにあっさりと切れ、薩摩と魔王の腕は重力にしたがって落ちていった。
そして、右腕を切り落とされた魔王は反射的に左腕に握ったフックを離し、そのまま地面へと落とす。
「痛てっっ!」
「フックっ! 薩摩っ!」
それぞれの落下した場所に、ジャンヌとマノマノが向かい救出をする。二人の様子を見る限り無事なようだ。
「マノマノ、ジャンヌ。二人は薩摩とフックを頼む、終わったら只野とユダを探してくれ」
「うん、わかったっ!」
「了解した」
二人が薩摩とフックを抱えて体育館の端の方へ逃げるのを確認すると、改めて魔王と向き合う。片腕を切り落とされてか、その表情は険しい。
「おい、魔王。いや
魔王は何も答えない。いや、何も言えないのだろうか。そもそも今回の魔王騒動、どこか気になる点が多すぎる。
なぜ、教員が動いて参加しない。
なぜ、このタイミングで魔王は現れた。
なぜ、体育館なのか。
引っかかる点が多すぎる。それにこんなところを占拠したところで、どうにも世界征服につながるとは思えない。
攻撃できずに、考えばかりが頭をよぎる。なぜだ、
「ハァ....流石に勘付かれましたか」
「っ、誰だっ!」
突如体育館に響いた声に思わず手に持った剣を正面に構える。だがどうだろうか、この声、どこかで聞いた覚えがある。
「さすがは勇者というか、勇者君というか、まぁだからこそ、こんなものを作り上げたんだけどね」
「お前....っ!」
魔王の陰から現れた、そいつは紛れもない。一番目から登場し、俺を魔王退治に向かわせた張本人。
「只野....っ!」
「やぁ、勇者君。君ならやってくれると思ってたよ」
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さぁ、次回の方。あとは任せましたよ?
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