第19話 出撃

「Wa-109、知っているよね?」

「はい。ヴァルター社の新型機ですよね。内からも工場に取材に行きました。実戦投入も間近だとか」

パーティーの喧騒を他所(よそ)に、ライネルト少佐と私は庭先で静かに話をしていた。

「少佐はもう、御乗りになられましたか?」

「昨年の12月に。ロシアで」

「えっ、既に実戦投入されていたんですか?」

「あくまで、テストとしてだが。東部戦線の、我が帝国諸国や、同盟国の部隊を回った。土地土地で実際にロシア軍の装甲狙撃兵と戦い、性能を誇示する。デモンストレーションを兼ねていた。どうぞ、我がバイエルン王国のヴァルター社の新型装甲擲弾兵を御買上下さい、とね。セールスだ」

「それで、ロシア軍を圧倒したんですか?」

「勿論。最初の戦闘で、六機のDe-9と遭遇した。こちらは四機で。少し手古摺てこづりはしたが、全機を撃破した」

「こちらの損害は?」

「0だ」

「おーっ、凄い!」

と、私は思わず拳を握り締めた。

「将に戦争の雌雄を決する。Wa-109が実戦投入されれば、長きに渡る戦争も遂に終わるっ!」

「そう。そのはずだった」

「だった?」

と、私は振り上げた拳を降ろした。

「違うのでありますか?」

「……次の獲物を探して、我々の小隊はウクライナ西部に移動した。地元のウクライナ軍から、ポルタヴァのサッカー・スタジアムに居座るロシア軍の装甲狙撃兵中隊の話を聞いた。De-3が4、5機という話で、相手には不足だったが。我々がサッカー・スタジアムを取り返して見せましょう、と大見得を切った」

と、ライネルト少佐は右手で心臓の辺りを叩いた。

「我々は遠足気分で出撃した。見事、スタジアムを占拠した暁には、フィールドで記念写真を撮りましょう、とね」

ライネルト少佐が人差し指でシャッターを切る仕草をした瞬間、部屋の中で何かが割れる音がした。女性の悲鳴が。演奏が止まり、幾人かの男性の声を上げる。使用人も駆け寄る。暫くすると、演奏が再開された。

「良いかな、少尉?」

「あっ、はい」

と、私は再び少佐の方に向き直った。

「ウクライナ軍のSu-7二機の先導で、我々は吹雪の中、雪原を進んだ。当初の作戦では、Su-7二機に正面から攻撃を掛けてもらい、敵機が出て来た所をWa-109で左右から挟み込み、殲滅するという手筈てはずだった。スタジアムに与える損害を最小に留める為にもね。だが……相手は我々が来る事を予想していたのか、既に手持ちの駒を出撃させていた。スタジアムの5000メートル手前から、敵の通信が我々の回線に混線し出した。徐々に、声がはっきりとし、聞き取れるまでになった。我々は耳を疑った。なぜなら……」

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ティル・シュライベンの戦記『雪原のメルヘン』 訳/HUECO @Hueco_k

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