第18話 Актриса《アクトリーサ》女優

我々第三中隊は、郊外の放置されたサッカー・スタジアムを根城ねじろにしていた。

コンピューターに強いアレク軍曹と整備兵達が協力して、De-3にボイス・チェンジャー機能を搭載するため、目下もっか調整中なのだ。

「ペトロヴィッチ曹長、喋ってみて下さい」

「あー、こちら、四番機。聞こえますか? どうぞ」

「おっー!」

と、全員が一斉に声を上げた。

「どうだ? 上手く行ったか?」

「おいっ、ペーチャ。女らしく喋ってみろ!」

と、ウラジミールがはやし立てた。

「ううんっ」

と、私は咳払いをした。何時いつも聞いているアーニャ・ローズの口調を脳裏に蘇らせた。あれを真似れば良いのだ。

「こちら、四番機。ペトロヴィッチ曹長です。皆さん、聞こえてますか?」

「いい感じですよ」

と、オレク軍曹が親指を立てたが、

「ペトロヴィッチじゃまずかろう。よし、俺が名前を付けてやる」

と、ウラジミールが言い出した。

「ガリーナ、スベトラーナ、ナタリヤ……エレーナ。エレーナ・クズネツォワでどうだ? 喋ってみろ!」

「こちら、四番機、エレーナ・クズネツォワです。皆さん、聞こえてますか?」

「おー。完璧だ、ペーチャ」

「よし」

と、それまで黙って見ていたテデーエフ中隊長が口を開いた。

「次はジムネンコ曹長、君がやりたまえ」

「えっ!」

「当然でしょう? 次はあなたの番。私が飛び切り可愛い名前を付けて上げるわ!」

と、今度は私がマイク越しに、ウラジミールに復讐した。

「そうねえ……スサンナ・クラピービナ。どう? サーニャ、返事をして」

「ぷっ」

と、中隊長がいた。

「後はオレク曹長ね」

「自分はソフィーヤ・ウラノワで。ソーニャと呼んで下さい」

「よし、決まりだ。全員に徹底させろ」

「中隊長、コール・サインは? 今のままで?」

と、キタエンコ少尉が進言した。

「コール・サイン、コール・サイン……スニェーク吹雪ミチエーリ雪崩ラヴィーナ……スネグラーチカ。スネグラーチカ! どうだ?」

「ピッタリです」

「だろう、少尉。我ながら、天晴あっぱれの出来栄えだ」

ウラジミールは不貞腐ふてくされていたが、オレク軍曹は満面の笑顔であった。

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