一番大切なのは『私』にとっての、『あなた』。
- ★★★ Excellent!!!
私が好む長編小説の条件は色々ありますが、
・魅力的なキャラ
・セリフの辻褄が合い、心が籠っている遊びではないセリフがあること
・美しい情景が描かれていること
・主人公以外も大切に書かれている
などを特に重視します。
こちらのお話にはこの四つが随所に見られて、大切に考えられて描かれている話であることが感じられます。
多層的な空間を同時に捉えることになるため、欠伸しながらは読めませんが、集中して読むとその世界観の重厚感を楽しめるようになります。
私は小説をあまり軽い気持ちで読む気が元々ないので、読み応えのある多層的な世界観は読みごたえがあり、とても楽しかったです。
初見だと理解しないまま読み込んでいる部分もあるので、読めば読むほど「こういうことも言ってたのか」「ここはあそこに繋がっているのかな?」とか新たな魅力を発見できる話だと思います。
私は読み手だけではなく、自分でも書きますので、こちらの主人公を自分で書いたらどうだっただろう? などと想像してみると、幾つもの人格を保有している為、非常に彼自身の主体性を表現するのが難しいタイプの主人公ではないかなと感じました。
私が感じたのは、表現しにくい「彼自身のどう生きたいかという願い」を表現するためにヒロインのジェードの存在があるのかと。
彼女の存在がないと、確かにハリーファという少年の真意や願望は見つけにくい気がします。
むしろ、少年自身幾つものの人格を抱え込む過程で「自分自身とは」という部分が曖昧になっている部分があるため、ハリーファ自身が自分自身の存在を確立させ、確かにそこにあると実感するために、鏡のように自分を映してくれるジェードの存在を必要としたのではないでしょうか。
人間が生きて行くことは、その過程で色々な願いを抱くようになることです。
一人の人間でも自分の抱いた願いを全て叶えることは難しいものですが、
ハリーファは自分以外の人間の願いも叶えることを託された存在です。
他人の願いすら引き受けて叶えながら、自分の望むものを見失わず、願いに辿り着くなどは非常に困難なことであり、
その困難な運命に立ち向かいながら、一番最後には自分の望みを見失わずそこに辿り着けたことが嬉しかったです。
様々な人間の幸福も、不幸も描かれています。
主人公二人を追いながらも、その周辺に好きな登場人物を見つけ、そのキャラを追って行くような読み方も面白いかもしれません。
ちなみに私はアーディンが一番この話でいいなと思ったので、彼が作り上げる運命の渦に翻弄される人々の苦しみにあまり共感出来なかったのが初見の印象でした。
このあたり、もしかしたらもう一度読むと、アーディンの迷いの無さと、彼の運命の渦に巻き込まれて戸惑う人々の「接点」のような部分が捉えられるのかもしれないなと思っているので、ぜひチャレンジしてみたいと思います。
ですがかなり迷いながら生きている登場人物が多い中で、アーディンの迷いの無さはやはりどのような意味合いがあれ、鮮烈で明るく、一番印象に残っています。
色んな立場の人たちが出てきますので、気になる登場人物それぞれの視点で物事を見てみると、善悪で留まらないそれぞれの願いなどが見えて来るかもしれません。
こう読んでくれ! というよりも描き出した人々を読み手がどう感じるか? そういう余白をたくさん残してくれている、私の好きなタイプの話でした。
とても読み応えがある異世界ファンタジーです!