#21 春

「奏くん!良いこと思いついた!これで明日から学校来れるよ!」

「え?」


急なことに今度はこちらがきょとんとしてしまった。


「みんな奏くんのお姉さんのことを"お姉さん"だと思ってる。それを実はお姉さんじゃなくていとこだって言うの。で、奏くんだと思ってたのは実はお姉さん、じゃなくていとこさんの妹さんだったことにすればいい!お姉さんがいとこだったことに驚いて、みんなそれどころじゃなくなって誤魔かせるよ!」

「なるほど……!」

「あと、実はおととい習い事の友達が映画に行ってたらしくって、半券を借りてくるから、奏くんは映画を見に行ってたことにすればいいんじゃないかな!どう!?」


今日あったときの春人くんの面影はどこへやら。

でも希望が見えたようで嬉しかった。


「ありがとう、春人くん……!」

「いや、私こそ本当にごめんね。」


春人くんに抱き寄せられ、僕はそれに身を任せる。


「奏くん、今日話したこと秘密にしててくれる?」

「もちろん。僕のこともお互いに秘密。」

「ありがとう。実はこの"はると"っていう名前も何か男の子っぽくて少し抵抗があるの。よかったら"ハル"って呼んでくれない?」

「わかった、ハル……くん……?ちゃん……?」

「んー、そうだね、どっちも色々とおかしくなっちゃいそうだから、呼び捨てでいいよ。」

「わかった、ハル。」




そうして夜ご飯の席でちーちゃんにもすべて打ち明けた。

当然、春人くんのことは内緒に。ただその場に一緒にいた責任を感じて話をしに来てくれたということにした。


「ちーちゃん、だから心配しないでね!大丈夫だから!」

「でも奏ちゃん……、一つ疑問なんだけどいい……?」

「うん、なに?」

「奏ちゃん、歩くんに言われて、教室飛び出しちゃったんだよね……?その理由だったら飛び出しちゃったことは誤魔化せないんじゃない……?」

「「「あっ……。」」」


一緒にいたお父さんやお母さんも絶句し、ご飯を食べる手が止まる。

確かに、その場所にはいなかったことにはできるが、それならなぜ教室をとびだしてしまったのか説明できていない。


「じゃあ……、こういうのはどうだろう……?昔、水族館に行ったとき、イルカショーでステージの上に行かせてもらって参加したことがあったよね……?」

「あった、あった!手を上げたらイルカが飛んでくれるやつだよね。」

「そう……。そのときに奏ちゃんは滑ってプールに落ちてしまった、ということにするのはどう……?」

「しかも大勢の前でね。」


お母さんが楽しそうに設定を加える。


「うん……。それで奏ちゃんは歩くんに水族館に行ったか聞かれたとき、『昨日』という言葉を聞き逃してしまって、過去のことがバレてしまったと早とちりしてしまったの……。それなら恥ずかしくなってつい教室を飛び出してしまうのも無理はないよ……。どう……?」


「ちょっと無理がある気がするけど、それで頑張ってみるよ……。」




翌日、学校では予想を上回るクラスメイトの反応を見ることが出来た。

ハルが借りてきてくれた半券を見せたときに、映画の感想を求められたときには少し焦ったけれど、「めっちゃくちゃ面白かったよ。みんなも見に行ってみてよ!」と言うとそれ以上は触れられなかった。


ありがとう、ハル。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女装魔女 大海陽向 @Hinata_Omi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ