オズ -不思議な国の物語-

比名瀬

第1話 『青年と少女』

 ここはエメラルドの都。

 床も壁も、家も城壁も。右も左も全てが全て、エメラルドの花緑青色にキラキラと輝く街並み。

 とてもじゃないが皆が直視出来ず、ゴーグルのような大きな翡翠色のレンズの眼鏡をかけて暮らす場所。

 先代国王にして、今はいない偉大なる魔法使いオズが建国した国の中心であるこのエメラルドの都は、恐らく彼の趣味でこんなにも花緑青色で彩られた姿形になったのだろう。

 ここは、些か変な場所ではあるが、この都の人達にとっては普通の事であり、なんら違和感のない場なのだ。

 

 そんな都の商店街通り。

 やはりこの通りも、きらきらと花緑青の輝くような道を往く人々の中に、大きな紙袋を2つを持ってよちよちと歩く小さな一人の少女がいた。

 深くかぶったフードと、前も見えぬであろう程にたくさん買った紙袋を抱える少女の手は震えており、今にも紙袋を落としてしまいそうである。

 

「あっ…」

  

 そして、ついに彼女は通りすがりの人とぶつかってしまう。その拍子に、紙袋から手が離れてしまい、中身が道へと散らばっていく。

 少女は急いで散らばってしまった物をかき集めるが、道行く人々は誰も彼女を手伝うことは無い。

 そんな俯いてしまった少女の前で、一人の青年が足を止めた。

 

「みんな冷たいやつらだな」

 

 そう言うと青年はしゃがみこんで、少女が落とした荷物を拾い始める。

 

「あ、えっと……」

「ほい」 

 

 なんと言えばいいのかわからずに戸惑う少女に青年は、拾った物を倒れていた紙袋に入れ直して手渡す。

 その時、フードの下に隠れた顔がちらりと見えたが、それは翡翠色の大きなレンズ越しに見えた少女の驚きに見開かれた瞳とぽかんと口を開けて呆けた表情だった。

 

「なんつー面してんだよって、おい?」

「わわっ……!」

 

 彼女の表情が可笑しかったのか、青年は口元を緩めて、フードの上から少女の頭を撫で回す。

 

「あ、あの…えっと…!」

「ん?どうした?」

  

 やっと声を出した少女の言葉の続きを待つように、青年は撫で回す手を止めた。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 少女は俯きながらも、精一杯というような大きな声で、青年に礼を言う。

 

「どういたしまして、だな」

 

 青年はそう言うと、もう一度少女の頭を撫でてやった。

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