エピローグ


事件から三日後、俺にようやく退院許可が下りた。

黒幕の柄架弖を殺した後、俺は意識を失い病院に運ばれた。

原因はエネルギー過剰使用による重度の疲労と急性肝異常。だが能力者に理解のある医療スタッフの治療と能力者特有の治癒能力により、一日で回復した。

姿はもちろん人間のままに戻っていた。

しかし、過剰なエネルギー使用の代償として体重が十キロ以上落ちており、体力が事件前と比べて衰えている事、急激な細胞変化によりそう長くは生きられない事を伝えられたのであった。

俺は黙ってその言葉を受け入れる。長生きできない事など前から感づいていたからだ。だからその言葉に恐怖も何もなかった。


入院中、面会に来たトモエさんから魔女の形だけの裁判が終わった事を伝えられた。

彼女の罪状は動物愛護違反、強盗、傷害、銃刀法違反、殺人未遂と未成年とはいえ信じられない数の罪を重ねていた。しかし、捜査に積極的に協力し、結果的に過激組織の幹部の野望を阻止したとして罪は全て帳消しとなった。

逆に今回の事件での功績が協会の目に止まり、正式入会した。既に行為を犯した者をスカウトするという前代未聞の出来事にさすがに協会側の上層部は大いに揉めたらしいが、市長がうまく纏めているみたいだ。

「一応能力を悪用しないように私が監視役を引き受けた。あの娘は一人暮らしで何するかわからんと言われたからな。だから涼介、すまないが後輩が1人増える。面倒を見てやってくれ」

面会の去り際にトモエさんがすまなさそうに言ってきたが、俺は快く承諾した。出会いは最悪だったが今では面白い奴であり一緒にいても不快には感じない。



『涼介!座標X256.Z145地点に能力者よ!』

「了解」

俺はすぐさま座標の位置まで駆ける。

魔女が仲間になった事で俺の仕事は多忙と化した。

現場は稀火兎市から離れた京都市内某所。サイコスフィアの暴走により能力を制御出来なくなった男が市民を殺害し逃走してるとの事。

『それにしても見下ろすっていいわね。他の人とは違う視点で見れるから飽きないわー』

「そのおかげで俺が助かってるんだがな」

空から見下ろす事によって得られる視界とドーピングによる視力強化により、犯罪者の行動範囲に死角がなくなる。

後は鷹の目の情報の場所に行き始末するだけだ。

指定された場所に着くと鉄の錆びた強烈な臭い。

視えるは横たわる血を流している人間と、その血を一心不乱に舐めている不審者。

「よう人間の血液ってどんな味だ?」

不審者がゆっくりと振り向く。

青白い顔、犬歯がむき出しとなり、口周りを紅で装飾した男は俺を睨み付ける。指は鋭く尖った赤き爪。

「オレ……チ……モトメル、オマエ……ダレ……ダ」

もうこいつは駄目だな。完全に壊れている。

そう言えば、ハロウィンでこいつだけは出てこなかったな。

「俺か?俺は鋼鉄人間とでも言っておこうか」

「コウ……テツ?」

「そうだ。お前に殺害許可が下りた。これよりお前を殺す」

そう言って俺はあの時と同じようにナイフを鞘より抜き構える。

「行くぞ吸血鬼、一瞬で終わらせてやる」







エピローグ2


「ああ、隊長ですか。武藤です。……はい、『鋼鉄人間』の変化をこの目で確かに確認しました。映像は後ほど送ります。……柄架弖はよくやってくれましたよ。人質の同胞八人の減刑のために、我々協会の実験に快く参加し、黒幕を引き受けてくださいました。まあ結果殺されてしまいましたがね。鋼鉄人間は疑わず淡々と任務を遂行していました。まさか柄架弖が既に捕まり、司法取引に応じてるなど考えてもいないでしょうからね。……はい、実験は成功です。彼は後1回ほど変身できるかと思われます。それ以上は無理に近いですね。まあ彼自身、長生き出来ない事は悟っているようですし。いざという時には彼をまたわざと瀕死に追いやって変身させればいいかと。…………では私は今から東京に戻りますので。ご心配なさらずとも既に《おみやげ》は買っていますよ。…………そういえば法務大臣は死刑執行命令書にサインをしましたか?…………なるほど。もう既にサインを。ではすぐにでも執行が可能と。まあ元から減刑などするつもりなどありませんでしたからね。内乱罪の首謀者は死刑または無期禁固。テロリストに慈悲などいりませんよ。…………はい、失礼します」


                                   【完】

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鋼鉄人間:戸塚涼介 なんこつとりで @nankotsu

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