とある旅人の誕生日
白石定規
01
「ようこそ魔女様! 我が国へ!」
その日、私が訪れたのは何の変哲もない国。正直に申し開きをするのであれば、私はそこがどこの、何という国なのかを一切知りませんでした。要するにただ単純に、旅の合間になんとなく辿り着いてしまった国がそこであるのです。
せっかくの記念日でしたので、できれば面白い国に泊まりたいと思っていたものですが、しかし私が旅をしている地域はそれほど面白さに溢れた国は無かったようで、結局、私は流れつくようにその国に着いてしまいました。
門兵さんは私に敬礼をしたのちに、
「それでは入国に際して、魔女様には色々とお聞きしたいことがあるのですが」
と用紙とペンを手に持ち、
「まず、魔女様のお名前を教えてください――」
そこから始まったのは、入国審査。
名前、役職、入国の目的、そういった簡単な質問を幾つかなされました。
イレイナ。魔女。物見遊山、とそれぞれ質問には単語にてお答えさせていただきました。
そして門兵さんは、「なるほどなるほど……では生年月日は?」と首を傾けます。
入国審査にてよく聞かれる質問でしたが、あまり応えたくはありませんでした。
けれど正直に申し上げなければこの門から先になど進めなくなってしまいますので、私は、
「……十月十七日です」と応えました。
……そう応えました。
そうです。
今日です。
今日が私の誕生日なのです。
だからこそ応えるのはあまり気が進みませんでしたし、何だったら記念に面白い国にでも行きたいなと思っていたのです。
それに、今日が誕生日だと知れたら、門兵さんは「おおー。おめでとうございます。幾つになるんですか?」とにやにやとするに決まっていますので、私はそれが嫌で嫌で仕方なかったらほんの少し渋って応えていました。
「……ほうほう。十月十七日……」
私の予想に反して門兵さんの反応は淡泊でした。
「……ん? 十月……十七日……?」
と思ったら門兵さんのリアクションはやや遅れてやってきました。
「十月十七日……? 今日じゃないですか! 今日! 誕生日じゃないですか! なんてことだ! なんて日だ! これは大変だ!」
遅れてきたわりにややオーバーすぎるリアクションだったと思います。
「大変だあああああああああああああああああっ! 皆来てくれえええええええええええっ!」
……いやだからオーバーにも程があるのでは。
「魔女さんが! この! 魔女さんが! 誕生日だあああああああああああああっ!」
いやいや誕生日くらいでここまで大騒ぎしなくていいのでは。
などと思う私を無視して門兵さんはひたすらに叫び、喉が枯れるほど叫び、そのせいで人があれよあれよと集まって来てしまいました。
「何だって?」「この魔女さんが誕生日?」「こりゃ大変だ!」「皆! 宴の準備だ!」「急いでかかれえええ!」
「あの、……えっ?」
戸惑う私でした。
「さあさあ魔女さん! こちらへ!」「折角の誕生日なのですから、楽しまなきゃ損ですよ!」「さあさあどうぞこちらへ!」
「えっと……あのう……?」
戸惑う私でした。
結局私は、突如として現れたその国の人々に連れられて、強引に入国を果たしてしまうのでした。
これは一体……どういう……?
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