RPGが現代版になると色々おかしい
真っ黒な車に詰められて連れて来られたのは、テーブル一つと椅子二脚、心もとない電球が一つ下がった全面が無機質なコンクリ剥き出しの薄暗い部屋。
「さて、色々吐いてもらおうか?」
先程化け物を倒した真をここに連れてきた男はそう言ってテーブルに両手を付く。良く見ると、真とそう年は離れていない様なしかめ面さえいていなければ仲良くできそうな顔立ちの少年だった。
「色々って?正しいペンの回し方でも教えて欲しいの?」
相変わらずふざけている真に少年は苦笑いを浮かべながら続けた。
「とりあえず、知っている限りのあの化け物について教えて欲しい。もちろん相応の報酬は払う」
真は少々面食らった顔をした。
「なるほど。ベタなアクション映画みたいな事にならなくて助かったぜ」
そりゃあ、水ぶっかけられたり脅されたりされるのはごめんだ。真はふぅと一息ついて、椅子の背もたれにもたれ掛かった。
「一気に気が抜けたな...」
呆れ気味に少年は苦笑する。
「お前なあ、秘密結社に捕まって警戒して、まともな奴らだったらそりゃあ気も抜ける」
「一応、秘密結社じゃなくて、れっきとした公務員なんだけど......」
それから一息ついて、真はゼールについて話した。
「奴らの名はゼール。数年前にアマゾンのジャングルで生態調査していた時に発見した生物だ。」
「なぜアマゾンのジャングルに?」
「あんな奴らを素手で倒す奴に今さらそんな事聞くのか?」
「ごもっとも...しかし、だとしたら君は一体何者?」
真は顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「勇者」
「は?」
耳を疑う答えが返って来たので思わず素っ屯狂な声を上げて、少年とその場の空気は固まった。
「どう説明すればいいだろう...ゼールは、いわゆるRPGゲームに出てくる悪魔が作り出す〈魔獣(モンスター)〉的な奴らなんだ。実際に昔、魔女狩りが行われたのも、悪魔を炙り出すためだったんだ」
普通に聞けば、どこの中二病のネトゲ廃人かと思える発言だが、事実そのゼールと呼ばれる化け物は生物学的に不可解な構造をしていて、生物的限界を突破した身体能力を持つ事については、数多くの報告を受けている。
状況が状況なだけに信じざるを得ない。
「ならば、なぜアンタにはそんな化け物を狩る事ができる?そんな力、どこで手に入れた?」
少年の目から冷静さの色が失せても、真は口に人差し指を当てながら笑顔で答える。
「それは教えられない」
◇
「......という事があった」
「色々おかしいよ......?」
現在真は家で中学生の妹の桜色のポニーテールが可愛い姫村 柚梨(ひめむら ゆり)と夕食の食卓を囲みながら、学園から連れて行かれた時の話をしていた。
本当に夕食前に戻ったのには驚いたけど、正直あれを見た後ではそうでもない。
「大体、お兄ちゃんは何でそんな力があるの?」
呆れ気味に聞かれ、真は笑いながら答えた。
「実はな・・・・・・ゼールに襲われ、右腕と右足、左目を失った俺は、ある天才科学者に出会い、特殊強化合金による改造手術を受けたのだ」
「それは、昨日お兄ちゃんが徹夜で見たアニメでしょ」
確か巨大昆虫と戦う高校生とその相棒である十歳の少女のSF物語だった。
間髪入れず、ジト目で突っ込まれた真は事ズズズッと味噌汁をすすり、何も無かったかの様な感じでスルーした。
「それでお兄ちゃん、明日は学校が臨時休校だって」
「意外とあっさり聞くのをやめるんだな」
こうも簡単に諦めてくれたのはありがたいが、多少物足りない気もする。
「『世の中言えない事は沢山ある。その中には聞くべき事とそうでない物があり、それを見極める事に人間の価値が出る』。」
「っ!?誰の言葉だ?」
真にしてはかなり珍しい低い声音(こわね)に思わず柚梨(ゆり)は目を見開いた。
「えっあ、アニメのセリフだけど......」
「そうか......」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
◇
真は夕食の後片付けを終えた後、部屋のパソコンでとあ場所にメールを送った。
その後、ベッドに寝転がった。
ーーやはり運命なのか?なぜあいつの言葉が今になって・・・・・・
あまりにも過激な一日の疲れにより、真が意識を手放すのにそう時間はかからなかった。
◇
「さっきのお兄ちゃん、様子おかしかったなあ」
柚梨は夕食後、先程の真の急激な変化に違和感を感じていた。
ーーさっきは途端にあんな事言ったけど、あれアニメじゃなくてただの夢の話なんだけど......
「もしかしてあれかなぁ?
『遅めの中二病』
って奴?まあいいや。寝よ。お兄ちゃんが変なのは昔からだし」
◇
翌朝。
今日は週末なので学園は休みである。
最も、ここ数日は校舎の破損状況等の安全面から考えても、休校は避けられないだろう。
今日は大事な用事があるため、真は例の組織の少年を柚梨を連れて喫茶店にやって来た。
柚梨の方は少年をかなり警戒していた様だけど。
「えーと、とりあえず、こちらが俺の妹の姫村 柚梨(ひめむら ゆり)だ」
「はじめまして」
にっこりと柚梨は笑うが、何かとてつもない気迫を感じる。この瞬間、真と少年には柚梨の背後にあ巨大アナコンダの幻覚が見えた。
──柚梨!?そりゃあ、兄を連れ去った奴に愛想良くしろとは言わないけど、こんなに敵意をむき出しにしなくてもいいんじゃないか?これが思い込みだったら恥ずかしい......
「は、はじめまして嵐 燎牙(あらし りょうが)です・・・・・・」
怯えていた燎牙を横目にコホンと咳払いをして話を進めた。
「早速本題に入るが、どうせゼール退治するなら専門の組織に入ろうと思ってな。今の俺でも全部を把握しきれた訳ではないからそこで詳しい話を聞きに行く」
「そんな組織まであるのか?」
「ああ。RPGの定番<連合(ギルド)>だ」
◇
「何が『RPGの定番』だ、思いっきり現代じゃねぇか!」
「お兄ちゃん、本当にここで間違いないの?」
衝撃のあまり、言葉遣いがおかしくなった燎牙と首をかしげる柚梨。
それもそうだろう、『RPGのギルド』と言ったら、少し苔等が生えた石レンガで造られた小屋を想像するのが普通なのだが、今三人の目の前にあるのは、全面ガラス張りの超高層ビルである。
「ここで間違いない。大丈夫。昨晩、ちゃんとアポは取ってある」
真は早速エントランスに入り、カウンターの受付を通してエレベーターに三人で乗って地下を目指した。
「おい、真。一体ここはどういう施設なんだ?」
「まあ、それを説明するために来てもらったんだ。あと、着いたら絶対に俺から離れるなよ」
そう言って、真は左手首に手を当てた。すると、光の粒が集まって、六角形のメカメカしいブレスレットが現れた。
「武装ー〈レベルゼロ〉」
真がそう短く唱える。
ブレスレットから黒い煙の様な物が真を包み、一瞬の内に真はグレーのパーカー姿から針ネズミ型ゼールを倒した時の黒いロングコートを着ていた。
エレベーターに乗っていたあとの二人は言うまでもなく、がく然として固まった。
二人がフリーズから回復するのを待たずして、エレベーターがチンッという音で到着を知らせた。
「さて。この感じも久しぶりだな」
一歩外に出ると、今度はカウンターやら壁に嵌め込む形の液晶モニターやらが所狭しと並んだ近未来風のスペースがあった。けど、今の二人にはそんなのは些細な事に思えた。なぜなら、そのスペースに居た者に驚きを感じたからだ。
見渡す限り、オーク、ゴブリン、ダークエルフ、エルフなどのいわゆる亜人。人間もいるのだが、こっちはこっちで拳銃だったり、バトルアクスを持っていた為、どう見ても違和感がある。
「さあ、こっちだ」
真はポカンとしていた二人を連れて、部屋の奥にある受付カウンターに向かった。
そんな時、一人のオークがその行く手を阻んだ。
「おい坊や、見ねぇ顔だな。新入りか?」
緑の体色、真の二倍はあるであろう身長、しっかりとした体つき。そして完全にこちらを見下した目付き。どうやらここに所属するゼール狩りの様だ。その恐ろしい形相に柚梨は思わず真の後ろに隠れた。
「はい。これからギルド登録をしようかと思いまして」
オークの悪態に真は構わず愛想笑いを浮かべる。
「だったら、俺ん手下になれよ。ガキにも分かりやすく教えてやるからよう」
「いえ、お構い無く。今日は予約もあるので用事と登録が済んだら、帰ります」
「ああっ?テメェ俺様を誰だと思ってんだ?900年前の魔族と人間の戦争を生き抜いた魔王軍のエリート部隊〈黒獣(こくじゅう)〉のガーラ様だぞ!」
「でも結局勇者に負けたじゃん。〈黒獣〉部隊はほぼ全滅したから、『生き抜いた』というより『逃げ切れた』の方が正しいんじゃない?」
「このクソガキが......へえ、テメェいい女連れてんじゃねぇか」
オークのガーラが真の後ろに隠れてる柚梨に手を伸ばす。その手をすかさず真が掴んだ。
「オッサン、あんまり俺の妹にちょっかい掛けないでくれるかな?ただでさえ怖がっているんだから」
「邪魔すんじゃねぇ!!!」
ガーラが真の手を振りほどくと、手に持っていた巨大なバトルアクスを勢い良く振った。
真が真っ二つにされたと誰もが思ったが、真は何食わぬ顔で片手をポケットに突っ込み、もう片方の手の人差し指、中指、親指で自分の体の八割の大きさはあろうバトルアクスを受け止めた。
「やれやれ。どんな時代もこんな奴はいるのか。妹にさえ手を出さなければ見逃した物を」
真はバトルアクスを受け止めた三本の指に力を込めると、バトルアクスに糸が巻き付くようにヒビが入り、甲高い音とともに粉々に砕け散った。
「なっ!?」
お得意の武器をあっさり破壊されたガーラは激しく動揺した。
すかさず一瞬で距離を詰めた真のアッパーが決まり、ガーラは大きく吹き飛んだ。
「テメェ!」「クソガキの分際で!」
とか言って、数人の亜人が襲い掛かって来た。全員を迎撃すべく真も構えた。隣と後ろに居た燎牙と柚梨は激しく動揺した。
「お止めなさい」
女性の声だ。
怒鳴り声じゃないが、かなり威圧感のある声。
「ぎ、ギルドマスター!」
襲って来た内の一人がそう叫んだ。白いドレスの様な服に翠髪のエルフだった。
「あなたがここのギルドマスターですか。ギルドメンバーのしつけがなっていませんね」
真がそう挑発とも取れる言動をする。
「それをこんな場所で殴り飛ばす辺り、お互い様でしょう」
翠髪のエルフはそう返した。
「それもそうだ。今日はあなたに話があって来た。あんまり人に聞かれたくない話なんだが?」
「いいでしょう。では、奥の部屋へどうぞ」
翠髪のエルフは三人を奥の部屋へと案内した。
◇
「では話してもらいましょうか?」
依然として、表情一つ崩さず凛とした様子でこちらを睨む翠髪のエルフ。
その後奥の会議室に三人は案内され、中央にガラスのテーブルを挟んだ状態で向かい合う形で双方ソファーに座っている。
柚梨と燎牙はさっきの騒動の時からずっと落ち着かない様子だ。翠髪のエルフは続けて口を開く。
「昨日、私の所にこんなメールが届きました。『明日、ギルドで話したい事がある。現在出現している化け物についてだ。非常に大切事だから聞いて欲しい。クロニクルより』。一体何のつもりですか?騒動や私をからかうのはまだしも900年前、この世界を救い、命を落とした英雄〈クロニクル〉の名を騙るのは無視しかねます」
「いや、騙るも何も本人だって」
「この期及んでまだ戯れ言を抜かしますか。私は、あの戦いを直に見ています。そしてクロニクルの最期も」
ここで真が初めて表情を崩した。
「お前......もしかして、レイリー?」
「!?」
対するエルフも表情に驚きの色が見えた。
「どこでその名を?」
「だから本人だって」
「では一つ実験をしましょう。この実験の結果であなたが本物かどうか判断します」
そう言うと、エルフは部屋を出て、数分後バスケットボールが入る程の木箱を持って来て、テーブルにのせた。
「この中にはある特別なモンスターが入っています。そのモンスターがあなたが本物かどうか判断しますよろしいですね?」
「どうぞ」
エルフが木箱の蓋を開けると、中から水色の何かが勢い良く飛び出して来た。その水色の物体は、真の顔面に直撃し、勢い余って真は後ろに大きく転倒し、そのまま地面でじたばたと水色の物体に弄ばれた。
「お兄ちゃん!?」
「おいアンタ、真に何をした!」
燎牙がエルフに怒鳴りつけるが、エルフは信じられない様子で目を見開きながらじたばたしている真を見ていた。
「そんな......嘘でしょ......?」
一方、真は首周りでヌルヌル動く水色の物体を引き剥がそうともせず、痒そうにじたばたしていた。
「やっやめろ、痒い!痒いって!ハハハッ!」
「キュー!キュー!」
かわいい鳴き声を上げながら水色の物体は依然真から離れようとはしない。
「そっそろそろ勘弁してくれ。ライミー。」
そう言われた水色の物体は、すぐに真の首周りを離れ、地面に着地した。
「まさか『特別なモンスター』ってのがお前だったとはな。久しぶり。ライミー。」
「私のあのあだ名とライミーの名前知っているということは、あなたは......」
両手で口元を押さえて、今にも泣き出しそうな声でエルフは言う。
「いやぁ、あまりにも出世したもんだから分かんなかったよ。久しぶりだな。レイリー」
「クロニ先輩......」
「泣き虫なのは相変わらずだな」
そう言って真はレイリーと呼ばれるエルフにハンカチを渡す。
「ありがとうございます......」
目から溢れる涙を拭くと、盛大に鼻をチーンッされた。
「おい!おまっそんなベタな......!」
「この反応、間違いなく先輩ですね」
何やらいい雰囲気の二人においていかれた少年エージェントと女子中学生は状況が掴めず、困惑していた。
「でも何で?先輩はあのとき確かに死んだはず......」
「その説明込みで今回会いに来たんだ」
「実際の所、俺、神なんだ」
「「は?」」
万能の神でも生きるのに結構苦労するんだよ? 緋宇 駆斗 @HYUKUROTO
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。万能の神でも生きるのに結構苦労するんだよ?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます