見えないダイイングメッセージ:(後)メッセージの謎
声の主は、目深に被っていた帽子を人差し指で押し上げ、「本庁一の敏腕名刑事と誉れ高い――波謎野です」と名乗る。
その後ろから顔を覗かせた背の高い若い男が、「同じく、
「おお、矢張り――」
「おや、私たちのことがそんなに有名ですかな?」
「ええ、それはもう有名ですよ。違う意味でですけどね」
「…………」
「まあ、それは兎も角、この被害者は矢張り、何かを書き残したのですよ」
「ん? それはどういうことですか」
「このボールペンは今流行りの消せるボールペンです」
「け、消せるボールペン……?」
「ええ、ワタシもこれと同じモノを愛用しているのですが、このボールペンは温度変化により色が変わるインクを使用しており、ペンの後ろについているラバーでこすることにより、摩擦熱で筆跡は無色となり消すことができるのです」
「えっ、つまり……?」
「――つまりこのインクで書かれたものは、60度以上になると透明になり、マイナス10度以下になるともとの色が復元し始め、マイナス20度前後になると完全に色が戻るという特性をもっているのです」
「おお、とても分かり易い説明!」
ホウカン刑事と琴田刑事が、顔を見合わせて感心する。
「そう、被害者はダイイングメッセージを書いたあと何を書いたのかを犯人に悟られないようにと、ライターでその文字を
「炙り消し? な、なるほど! それでライターを握っていたのか……」
頓田警部が相槌を打つ。
「消えてしまった文字は、家庭用冷蔵庫の冷凍室などマイナス10度以下の環境下に置くことで、もとに戻すことができるのです」
「おお、警部。さすがの流れ石!」
ホウカン刑事は、拍手をしながら尊敬の眼差しで賛辞を呈する。
「このメモを冷凍庫の中に数時間放置してみてください。きっと、犯人を示す何か……、若しくは被害者が最後に伝えたかった何か重要なものが浮かび上がってくるはずです!」
波謎野警部は得意げな顔で言い放つ。
数時間後――
「け、警部。出てきました!」
「おお、で、何と書かれていた?」
「ええ、そ、それが……」
「何だね? はっきりと言いたまえ!」
――最後に、煙草が吸いたい――
<了>
見えないダイイングメッセージ ~波謎野警部の迷探偵譚~ 長束直弥 @nagatsuka708
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