[最終話]人影ふたつ


2017年10月19日


タクシーは石花駅から僧侶を乗せていた。

まだ瓦礫の片付かぬ被災地を祈りをささげながら供養にまわる僧侶だ。


「お坊さん、その足で瓦礫のなかをまわるのは大変でしょう。」


僧侶は足に薄い草履をはいている。


「なぁに、まだ津波のなか苦しみもがいてる方々がいるんだ。這ってでも行かなにゃあならんて。

・・運転手さんなんてよくご存知でしょう。」


「ええ、被災地ここでタクシーをやっていると亡くなられた方がよく乗車されます。」


僧侶は、スッと前方を指指ゆびさした。


「被災地が近づいてきたようですね。

運転手さん。あそこに居おられる方々が見えますか。」


僧侶が指を指した方角にはふたつの人影があった。


タクシーが走行すると、徐々に人影が鮮明になっていく。


「・・ああ、はい。

見えますよ。」


運転手は薄目を開けて、人影を見る。


ひとりは、胴体から上うえがない人間。

もうひとりは片足が無かった。


「運転手さん、肝が据わっている。本当に慣れているようですね。」


「昼間の幽霊は怖いというより、なんだか物寂しい感じがしますよ。

あと、お坊さん・・。」


「はい・・?」


「お坊さん、あの首がないのは明らかに幽霊だけども・・。

もうひとりは普通の生きてる人間じゃないですか。

ほら、杖をついている足の不自由な方ですよ。」


(あ・・あれ?ひとりは普通の人間でしたか・・。

私もずいぶん目が悪くなったものだ。)


「・・まあ生きてる人間も亡くなっている人間も、

それほど差異は無いということです。」


坊主は照れ隠しのように言った。


「はは、そうきましたか。」


前方を映すドライブレコーダーには、

首から上の無い幽霊と片足の人間が、

車内を映すドライブレコーダーには、

目的地まで照れ臭そうにしている僧侶の姿が記録されていた。





------------




ここまでがメーター、乗務日誌、ドライブレコーダー等から割り出された被災地の霊の記録。


ほんの一部である。


書ききれなかった分は、筆者であるプラム宝玉堂にメッセージ等を送れば、折をみて返信があるだろう。

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被災地での心霊体験 ~ドライブレコーダーの記録~ @puremuhougyoku

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