第7話 ボストンバックと消えた封筒

ターミナル駅の遺失物お預り所で、拓真は昨日届けられた落し物のリストを端末にインプットしていた。昨日は朝方の雨が昼には止んで、お決まりのように傘ばかりが多数届けられた。最近はこうして拾われた場所や時間、写真を添えてホームページに掲載する。これで落とし主が現れる確率が大幅に上がった。拓真にとっても嬉しいことだが、手間がかかることこの上ない。一通り打ち終えて、両腕を高く上げウンと伸ばすと最近LEDに変わった照明が目に入った。しばらくそれを見上げていた拓真はパソコンを置いたカウンターの向こうからこっちを見ている青年と目があった。

「あのー、これ拾ったんです。」青年は手に持ったスポーツバックを拓真の方に突き出した。白い合皮にピンクの縁取りがある。スポーツメーカーのロゴもピンクで、大きく側面に描かれている。明らかに女性もののバックだ。

「ありがとうございます。こちらでお預かりします。」と拓真は受付票を取り出して青年の前に置いた。どこでひろわれましたか、何時頃のことですか、通り一遍にのことを聞き取りながら、拓真はそのバッグの取っ手に手をかけた。小型のボストンで、スポーツジムにの行くのにちょうどいいくらいだろうか。しかし、手に持った瞬間、そのカバンから湧き上がった感情と残像に拓真は戸惑ってしまった。二人の女性の後悔、くやしさ、そして目の前にいる青年の決意。そんな感情が整理されないまま噴き出している。

どんなものにも何かしらの念のようなものがあると拓真は思っている。そして時折それが拓真には見えるような気がするのだ。それでもこんなに強く感じることは珍しい。

青年は、住所も連絡先もためらうことなく記入し、念のためお願いした免許証の内容とも違いはなかった。その鞄から数百万という大金が抜き取られたことも拓真には分かった。それを知った上で連絡先までキチンと記入し、届け出た青年の想いに拓真は正直戸惑っていたのだ。


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遺失物係 @Simon4444

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