29. -side 国彦- オルコス・後篇


三日後、れえが寮に戻ってきた。

照れてんのか俺とは目を合わさずに、そのまま自分のベッドに直行したれえの背に俺は「おかえり」と声をかけた。


「ただ、いま」


そう応えて振り向いたれえは俺と目が合うと、とたん心底うれしくなって、いっそどうしたらいいかわからなくなってんのが伝わってくる。

可愛くて

手でこいこいっつて呼び寄せたら、れえはすぐ俺が触る事のできるとこまで寄ってきた。

俺が黙ったまま様子を見てたら、れえは思いきったみたいにして俺の腹んとこに抱きついてくる。


「大丈夫か?」

「ん、病院ばっか行った」

「…頑張ったな」

れえは小さく頷いて目線を上げて俺を見た。


「くに、いっかげつ謹慎て、もう決定?」

「あぁ、二週間後本部に行くことにはなってるけど、それまではここで大人しくしてる」

「そしたら、それまでは一緒にいれるってことだよな?」



「ロミオさ…」

「兄ちゃ…」

ロミオさんの事を俺が切り出そうとしたら、れえと声が重なった。

変に緊張してる自分に気付いて、

俺は努めて冷静に聞いた。


「話せたか?」

「イギリス来いって」

「……うん」

「兄ちゃん、くににも電話したんだろ?」

「連れてくとかほんとにやめてくれって言った」


篠原は身体が癒えりゃまた出てくる

れえ自身の不安要素だけじゃなくて

俺自身が他の誰かから恨み買ってて

木下に拉致られた時みたいな流れ弾的な事がこれからだってあるかもしれない

ロミオさんはそうゆうのひっくるめて俺の傍にいるれえの事心配してんだと頭では理解できていた

ひとときロミオさんのとこにいるだけだ

れえがその方がいいならそうすべきだ

なのに、そっちに心が動いていかねー…


「…ロミオさんがお前傍に置いときたいつうのは、むやみやたらに無茶苦茶言ってるわけじゃないのはわかってんだけどな…」


俺の目線に、れえの懸命な瞳が入り込んだ。

口を小さくはくはくとしてから、強く俺の胸元の服を掴んだ。

「俺はくにの傍にいたい」


そこまで言って言葉をつまらせたれえは、赤面していっそ不機嫌そうな顔で一度目を反らした。

でも、それから少し息を整えると不安げに眉を寄せて俺を見た。


「……もう兄ちゃんにそう、言ったから。そばにいる」


れえがそう言ったのを聞いて

自分でも驚くくらいホッとした

ああ そうか

そうだったんだ

あのときからもう俺は…



れえに触れたくて、どんな顔してんのか見たくて、抱きついたまま俯きかけてたれえの頬を撫でた。



「ロミオさん許してくれそうか?」

「許すって……だって俺、女の子じゃねえし。傷とか体とか別に。全然平気だし。あいつがもし戻ってきても、…大丈夫だから、怖くない。もう…」

「俺がやだよ」

「…、…」

「れえがいくら平気だっつっても俺が腹立つ」


れえはほんの少しの間呆然としたような目をしていたけど、それからすぐに手を伸ばして俺の首もとに強く抱きついてきた。

頬をすりよせながら、微かに震えた声で俺を呼んだ。

「くに」

「んー」

その髪の毛を撫でて、れえの耳元にキスした。れえは小さく「ごめん」と言った。

「ん」

「ほんとは、あんとき…シたかったんだ俺」

「?…いつ」

「はみがきしながらくにが、遅刻しても、い、からって。冗談てわかってんのに、俺がっこ行くまで我慢できなか…」


マジか、れえ

もっと強く押せば良かった…

たぶん痛いくらいれえを抱き締め返した。

「何で言わねーの。恥ずかしかった?」

俺の腕の中で、赤面したれえが頷く。


「こんな事…なるなら、あの時したいって言ってればよかった。…ごめんねくに」

弱々しい声色が今にも泣き出しそうに揺れてて、たまんなくなった俺は、ベッドにれえを押し倒して、れえの気持ちが少しでも軽くなるようにふざけた口調で

「…んとだよ。2ヶ月オアズケくらった分触りまくるからな」

そう言って寝転がったれえの脇腹をくすぐった。

「ふ、やめろ、わははは」


泣かせたくないと思ったのに、

笑わせたせいでれえの瞳から堪えてた涙が一筋零れ落ちた。

何の抵抗もなくするする零れた涙は綺麗で

不思議と不安も迷いもなくなった。


「れえ」

「ん」


「結婚しようか」


「…な…に言って」

「結婚して、一緒に」

「ば…か。俺、おんなじゃね…てば…ンーッ」

れえを抱き上げると、身体を反転させて俺の身体に乗っかった形のれえをそのまま抱き締める。

れえの鼓動が伝わってくる。


「けど、卒業しても、こうやって傍にいてくれんだろ?れえ」

「…、…ん」

「全部おわって卒業したら、部屋借りて一緒に暮らそう」


れえがイギリス行きを選ばずに

俺から離れないってわかって心底ホッとして、腑に落ちた気がしたのは


あの星空のしたで

守るなんて言っといて

その言葉の誓約に

れえ自身に

守られてたのはずっと俺の方だったからだ


「俺が…もう離れてられない」


「れも…」


ああ

また泣かせたな

泣かせたくないと強く思いながら

れえの泣き顔が好きだ

悲しくても嬉しくても泣いてしまう純粋さが愛しい

わけわかんなくなって舌ったらずになんのも興奮する

しょうもないよな

なのにれえはオアズケ食らわす前より、

傷を負う前より

俺を上手に煽って受け入れて受け止める


傷つけたくない。優しくしてやりたい。そう思うのに暴走しそうなほど興奮してて

抱きしめながられえの首筋から鎖骨を唇でなぞった。服を脱がせると二日前見た時より微かに薄くなった傷跡と、首元と胸元近くにはまだガーゼがかぶっている傷もあった。

痛々しくて、やっと脆弱な理性が仕事をした。

注意深く、れえの身体の中を指でなぞる。

身体が小さく痙攣して、それでも感じてんのがまるで悪い事みたいな泣きそうな顔になってるれえを見てたまんなくなった。

初めてれえの中に入ったあの雨の日とはまた違った衝動で、れえの身体に自分の欲望を押し入れた。

れえの反応を見てゆっくり進めたかったのに、れえの声が甘く上ずる度、次第にそんな余裕はなくなっていった。


「……あ…ふぁぅ、ンッ」

「…悪いれえ…余裕ねえ」

「い…よゆ、いらな」

「あ?」

「もっと…おれがくにの、こと、きもち、くしたい」


んなの言ったことないのに、れえの無防備な健気さにクラクラする

「……なに言ってんの。ずっと…めちゃくちゃイイよ」

「くに……とられんの、ヤら」


奥まで突いて引き抜く瞬間引きとめるみたいにぎゅっと締め付けられて、一気に切羽詰まってくる。


「……ッ!、ハァ、奥すげ…ぎゅーってなったな」

「ン…、……?」

「無意識か?…んな…離したくないの、れえ」

「……ん、うンッ、うんおれ、好き、くにだけ。しゅき…あ、らめ。俺イキそだ、」

「俺も……ッ、…れえ、ちょいマテ、一回…」

高まった射精感に、身体を引こうとした俺をれえが腕で引き寄せてぎゅっとホールドした。

「……コラ、れえ」

「ヤ…まだ、中いて、おれんなかいて、くに。好きだよ、ぜんぶお前の、になりたい」


どんだけかわいいんだよ

あぁムリだ

腰 とまんね


「…何だよソレ、…あー孕ませてぇ…」

「んッ、ぁ、あッ…」

「…、……」

「は、…ぁン、あ、あぁっ…ん……ンんッ!!」

「…ッ!!」


久しぶりにれえの中で派手にぶちまけた

あんまり久々すぎて、全然止まんなかった

同時にイッたれえも荒い息でしばらく喋るどころか身動きすらとれずに、ずっと小さく痙攣して浅い呼吸を繰り返した。

れえの額を撫でて前髪をどけてやると、れえがどこか拗ねたような悲しいような瞳で俺を睨んだ。

「……ば…か…じゃねえの…だから女じゃね…」

「うん……いや、そうじゃなくてな」

「…くに、ごめん…」

「なんであやまんの」

「俺、子供とか、…ねえから」



そんなしおらしくほんとに申し訳なさそうにされるとむしろクるぞ。

…なんだけど、れえが本気でシュンとしてんのが切なくなって、俺はれえを強く抱き寄せた。


「悪い」

「く、に?」

「悪かった。そんな風に思わせたくて言ったんじゃない」


傷つける気なんて毛頭ない

もっと深く繋がりたかっただけだ

それはきっとれえ自身もわかってる

だからこそ切なくて俺は、れえの逆立った心と呼吸が落ち着くまでその背を撫でた。


「身体大丈夫か?」

「大丈夫」

「我慢しすぎてリミッター壊れた」

めちゃくちゃ出したし…

今、れえが漏れ出てくる精液が零れねえように処理してんの見てるだけで軽く復活しそうで

リミッター…戻ってこい…


「な、くにおれと、しないってなってから、他のやつと…シてねえの?」


…?


「……何つった?」

「誰かと…エッチ」

「……怒ったマジで」


俺はがばっと起き上がってれえに覆い被さって、それからわざと大げさに怖い顔でれえを睨んだ。

冗談だってわかってんのに俺の一挙手一投足にびくびくしてんのがまた…かわいすぎる


「!?なんでだよ!だって、」

「むしろなんでそんな考えになったか言え」

れえのほっぺを両方からひっぱってそう言うと、痛がりながられえもキッと俺を睨みつけて言った。

「……、電話、知らねぇ奴でたも」

「…?いつ」

「お前、疲れて寝てるから電話出れないて」

「…訓練合宿中か?」

「ん」

「なら治療中…」

俺は腕を上げ、肘の裏にある傷跡を見た。


「!!…それ」

「害獣の毒回って治療で横になることはあったけど、…救護してくれた奴気ぃきかせたかもな」

さっきの膨れ面が嘘みたいに、今は俺の傷を眺めてはオロオロ泣きそうになってんのがたまらなくて、できるだけ優しく聞いた。

「知らねえ奴電話出て、不安になった?」

「ん、」

赤面したれえが、恥ずかしそうなのに素直に頷いた。

「もう俺のなんだろ?れえ」

「…うん」


冗談半分で言ったはずなのに、もうれえは目をそらさずじっと俺を見た。


「くにのに、なりたい」

「…や…れえ、いつもみたいにツッコまねーの?かわいすぎるだろ」

「…かわいてゆうな、ほんき」

「うん」



からかってやろうと思って言った言葉にも

甘い視線で俺を見て頷くから

俺も

素直にれえを抱き寄せて、それでも有り余るくらい愛しくて頬にキスして強く抱き締めた。


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sugar. 黒須カナエ @kurosukurosu

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