泉さんのお店

にぃつな

第1話 

 ぼくの友人に、ちょっとした商いを営んでいる人がいる。裏が森で近場に湧水があることから通称、泉さんと呼んでいる。

 友人といっても歳は7,8はど離れているし、月に数回あうかあわないかといった程度だ。

 ぼくは彼女については、名前と職業とあるひとつの変わった趣味をお持ちしているというところだけである。


 彼女の趣味というのが、オカルトというものだ。

 彼女の仕事柄か変わった人、つまり変人が彼女の店に尋ねているところを偶然見かけたことから、ぼくは、変わった人たちが着ているのだという直感した。

 もっぱら彼女にそのことを訪ねて、ああやっぱりといわんばかりの返答がきた。


 泉さんはそんな変人との付き合いが長いためか、ときせつぼくを巻き込む。これも泉さんのちょっとしたことから始まったものである。


 ある日、彼女から電話がかかってきた。珍しいものを仕入れたから見に来ないかというものだ。学校から帰宅して、すぐにかかってきた。ちょうど明日は休みだったので、翌日に泉さんの店へ尋ねに行った。


 彼女は泉に手をふれ、魚もいないのにまるで魚がいるかのように餌をまいてはひとりごとをつぶやいていることがある。

 彼女にそのことを尋ねても冷やかされ、決まった返答はかえってこないこともあったほどだ。

 彼女が立ち去った後、泉をもう一度じっと見つめ、ああやっぱりと泉は膝がつかるほどまでの高さしかなく、魚どころか虫さえいない水のなかに、ああやって彼女はいったい何をしているのだろうかという疑問をわくときも多い。


「泉さん、こんにちは」

 声をかけると、店が日にあたらないところにあるせいか、カーテンが開けられた窓辺にいても彼女の肌は真っ白いままで、暗いところから姿を現したときはかるく悲鳴を上げてしまうほど不気味である。

「やあ、いらっしゃい」

 無愛想な声で泉さんは答えた。やつれているのか少しふらつく。ぼくはそっと手を差し伸ばし、彼女のふらつく体を固定させた。

「ありがとう」

 彼女の声は力がない。まるで精気を抜かれたかのような疲れ切った言葉を吐いた。

「面白いものが手に入ったのよ。その辺、適当に座って」

 彼女はふらつく体をどうにかしておくの部屋へと入っていく。ぼくは心配ながらも彼女の言うとおりに見せの中にある茶色く色が変わってしまった木の椅子の上に座った。

「これよ」

 奥の部屋から顔をのぞかせ、もってきたものは四角い箱だった。木でできたいたって変哲もないただの木箱にしか見えない代物だった。

「何でしょうかこれ、木箱?」

「やっぱりそう思う?」

 彼女はウフフと笑みをこぼれると、じゃーんと木箱のふたをあけた。すると中から可愛らしい女の子のぬいぐるみが入っていた。

「ぬい…ぐるみ?」

 ぼくがそのぬいぐるみに手に取ろうとすると彼女の顔が急に強張った。

「汚い手で触らないで!!」


 ぼくはびっくりし手を引っ込んだ。

 彼女は再びニコニコと笑みを浮かべながら、この子がなぜ箱にいるのか話してきた。

「この子はね、ここでしか生きられないの」

「生きられない? どうしてですか」

 ぼくの問いかけにウフフと笑った後、彼女は木箱を閉じ、そっとぼくに教えてくれた。

「この子はね、生きているの」

「え」

 生きているということはどういうことなのだろうか。この可愛らしいぬいぐるみが生きていて、どうして木箱といった小さな箱の中にいるのかその疑問が頭から離れない。

「この子はね、とても怖がりなの。知り合いが、この子の面倒を見てほしいって尾まれたの」

 そう言って、彼女は再び箱を開けた。

 すると先ほどまで微動たりしなかったぬいぐるみの腕の位置が変わっていた。手を上げ、返事をするかのように立っていたのだ。さきほどまで座った体勢だったのに。

「冗談はやめてください」

「冗談じゃないのよ」

 彼女はそう言い、再び箱を閉じ、そっとつぶやいた。

「大丈夫」

 彼女はただそう言い、箱を奥の部屋へと持っていった。


 彼女が見せたかったものがあの箱だったのだろうか。ぼくは少しばかりか寒気を感じていた。この部屋に入ってから日が差さないことから少し冷えたなと思っていたが、どうやら違っていたようだ。

 あの箱が開けられた途端だが、部屋の温度が急に寒くなったような気がしたのだ。近くに温度計がないから正確な温度差はわからないけれども、あの箱にいる女の子が影響しているのかいまのぼくでは確認することはできない。


 彼女が奥の部屋から出てきた。

 さきほどまで笑っている様子はなく、いつもの無愛想な彼女の面がぼくに向けられていた。

 彼女にあの箱はどういうものだったのか尋ねてみた。彼女ことだからスルーされると思っていたのだが、意外とすぐに答えを教えてくれた。

「あの子はね、もともとは人間だったのよ」

「人間…」

「そうね、いちから話すわね」

 そう言って教えてもらった。

 あの子は、昔、小さな村に住んでいたそうだ。

 その子の村はひどい飢えで生きているのは到底難しいと言われたそうだ。あるとき、旅人がその子を引き換えに、飢えをしのぐ方法を教えてもらったそうだ。

 その子の両親はすでに不良の事故によって亡くなっていたことから村の長はこの子を差し出せば、村を救ってくれると思い、その子の気持ちを考えることなく旅人に取引として渡してしまったそうだ。


 その子は旅人になんらかの儀式の贄として、木箱のような箱に閉じ込められ、小さいぬいぐるみに憑りついたということだ。

 旅人は何を思ったのだろうか。その子を囚われの身として、箱に閉じ込め、そして長い年月の末、彼女の家へと贈られたという。

 旅人はなにを思って、その子を箱に入れたのか理由がわからない。いや、いっそうぶん殴ってやりたいと思った。

「その子はいまにいたる。」

 彼女はそう話しを終え、さあ、帰りの駅まで送ってあげるわといい、車まで移動した。送ってくれるのはいいのだけども、なによりも彼女のことが心配だった。

 そんな理由なき木箱に閉じ込められた女の子といっしょに家にいて大丈夫なのかどうかが気になって仕方がないのだ。


 送ってもらった先で、すでに電車がきていたことに驚き、彼女に返事をする間もなく電車に乗った。閉まる扉を前に彼女の力なく振るう手が妙に心配になってくる。


 翌週、彼女から再び連絡が入った。

 どうやら、あの木箱が知り合いから孵してほしいと頼まれ、持って行ってしまったのだという。それ以降、あの木箱の存在は不明となってしまったのだが、ぼくの心配とは裏腹にあの木箱のことをもう少し調べるつもりでいたという事実を聞き、ぼくはホッとするのを通り過ぎ呆れてしまうばかりであった。

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