剣と紡ぐ物語

ねこしゃん

第1話プロローグ

「あ、また壊れた……」

 ボサボサとした黒髪と不健康な白い肌をした少年が感情の無い声で呟いた。少年の手の中には、剣先が大きく砕け、まるで命を失ったかのように、輝きを失った剣があった。

「これで、もう76人目か……」

 ----この世界では、一部の特殊とくしゅな人間が存在する。一つは、巫女みこと呼ばれる少女達で、剣や槍や斧と言った武装になることが出来る。

 二つ目は、巫祝ふしゅくと呼ばれる者達で、巫女

《みこ》を扱う事が出来る。巫祝ふしゅくの七割が女性とされ、男性の巫祝ふしゅくは非常に珍しく重宝さているのだ。彼ら彼女達は基本学園で保護され生活している。

 巫女みこ以外にも、神々が作り出し地上に封印したとされる、聖剣と魔剣と呼ばれる武器がある。しかし、これらの武器は巫女達みこたちとは違い、契約を結ぶ事で初めて扱えるようになるらしい----

「レグルス、もう壊してしまったのかい?」

 一人の男が話しかけてくる

「あぁ、壊れてしまった」

「もう少し大切に扱ってくれ。君の為に、巫女をさらうのは大変なんだぞ」

「大切に使っているつもりだよ。でも、この子達が簡単に壊れるんだよ」

 男は溜め息をついた

巫女達みこたち一時ひととき相棒あいぼうなのだから、大切に扱いたまえ」

 レグルスは男の言っていることが理解出来なかった。自分の周りに居る者達は、全てが代替かえの利

《き》く道具であり、その道具達どうぐたちを使った結果として周りに被害ひがいが出ようと、巫女達

《みこたち》が壊れてしまったとしても自分さえ無事ならそれで良い思っている。巫女達みこたちが武装化

《ぶそうか》した状態で破壊されると、消滅しょうめつしてしまう。武装が消滅するのではなく、存在そのものが消滅してしまう。つまり死だ。

 男はレグルスが考えている事を察したのか、先程より深い溜め息をつくと、ある事を提案してきた。

「レグルス、五人の巫女達みこたちを持って遺跡

《いせき》に行ってこい」

遺跡いせきに?!」

 レグルスは驚愕きょうがくに目を見開いた。

 遺跡とは、この世界に数百数千個とあり魔獣まじゅうを生み出している場所である。街や村に遺跡から生み出された魔獣による、被害が出ないようにする為に、信頼を深めあった巫女みこ巫祝ふしゅくが定期的に魔獣まじゅうを狩りに行っている場所である。

 そんな危険な所でレグルスが生き残れるわけが無かった。

「そうだ。お前には遺跡でとある剣を持ってきて欲しい」

「俺じゃなくても取りに行けるだろ?」

「それは無理だろうな。お前だからこそ取れる剣かもしれない」

「どういうことだ?」

「お前は詳しく知らなくていい。忌み子のお前を拾ってやって我々に今こそ恩を返すべき時だ」

「……」

 レグルスは昔から、巫祝ひしゅくとしてのな才能を否、能力を持っていた。その能力は、レグルスが武装化ぶそうかした巫女みこのスペック以上の性能を引き出してしまうもので、巫女達が負荷に耐えられずに壊れてるしまうものだった。

 初めて巫女みこを握り破壊してからというもの、大人達からは、冷たい視線を送られたり人殺しとののしられてきた。今となっては、周りからなんと呼ばれようとも気にならないし人殺しだと自覚している。

 しかし、レグルスは思う。人や物はいつか壊れるあるいは死ぬものだ、それが多少早くなっただけではないかと。

 そんな事を考えていると、男が口を開いた

「これは、頼みではなく命令だ。行け」

「はい……」

 こうして、レグルスは武装化ぶそうかした状態の

巫女達みこたちを担ぎながら遺跡いせきに向かって歩き出した。

 これが孤独こどくで幼いレグルスの始まりだった。

 これから向かう遺跡でレグルスは、とある剣に出逢

《であ》う事になる。その剣こそが今後レグレスを運命を大きく変え、そして成長させる事になるのだ。

 これは大きなやみ背負せお孤独こどくに生きる少年と独りの少女である剣がつむぐ物語……

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