第7話 ダンジョンの内部
6話 ダンジョンの内部
ベータが言っていた無名ダンジョンとは、本当に周りに目印などない木々が広がるだけの変化のない景観の中に、ポツンと人工的に作られたような階段が奥へ奥へと続くだけの暗い洞穴だった。
ベータを先頭にして、パーピィのルーシー、オーガのゴンゾー最後尾にアリシアという順番で洞穴へとゆっくり、降りていった。
先の者がどんどん中へと吸い込まれていき、漸く自分の番になって、ちょっと気を引き締めて恐る恐るアリシアは階段に下半身をつけた。
最初は特に何も感じなかったのだが、降りていくうちに、身体全身に纒わり付くような寒気が彼女を襲った。
「中は魔素が充満してるから、最初はちょっと気持ち悪く感じるかもしれないけど、暫くすれば慣れるから」とベータは言っていたが、何せ何もかも初めてということ、階段というちょっとラミアにとって進むには不便な場所が内心不安ではあった。
そんなこんなで、一行はものの数分でダンジョンの内部へと到着した。
「それじゃあ、これから探索を始めるから、みんな決して遅れずに着いてきてね。
敵が現れた場合は、事前に話した戦術通りゴンゾーと僕が前衛、ルーシーが中衛でアリシアが後衛だよ。
まぁ、でもアリシアが索敵をしてくれるから、問題は無いと思うけどね。」
ベータがそう云うと、ルーシーとゴンゾは微笑した。
そんな彼らを後ろで眺めていたアリシアは、先程から感じている不安を隠すように愛想笑いを浮かべた。
そんなアリシアではあるが、彼女は彼らから索敵担当を任せられるほど、索敵能力には誰よりも長けていた。
これはラミア族等に特徴的で、普段は狩りをして過ごす彼女達だからこそ、自然と身についた能力であった。
それゆえか、暫く探索を続けているのだが、彼らが魔物らと遭遇することは一度もなかった。
「いや~、索敵をしてくれる人がいるだけで大分探索がラクだよ。君がいて本当に良かったよ」そう言ってベータは初見にも関わらず、自身の役割をちゃんと果たしているアリシアを労う。
そして、彼らは一言も喋ることなく奥へと進んでいく。
やがて、そんな沈黙が少し気まずかったのか、先頭のベータが「あれから随分回ったけど本当に何も無いな……」
と独り言を言っていったが、アリシアは反応すら求めていないような、そんな何気ない言葉が少し気がかりだった。
(変だわ、ダンジョンっていうから魔物とかがわんさか出てくるのかと思ったけど、さっきから奴らに遭遇するどころか、その気配すら感じないじゃないの。)
とは言えども、自分としては魔物と戦うのは極力避けたいので、それはそれで助かるのだが、何だろか、先程からダンジョンが初めてだからとかそう言う次元の話ではなく、もっと根源的な不安が心の内奥に纒わり付いてる気がするのだ。
(何か悪い事でも起きるのかしら?)と一抹の不安が頭に過ぎったが、あまり深く考えても仕方がなかったので「気のせいね」と一蹴してアリシアは探索に集中することにした。
先頭をきって進むベータは右手に黄色の魔石らしき物を持っていて、その魔石の効果なのか、それが眩しいぐらいに発光しているため、陽光が差さない暗い洞穴とはいえ、前方の景色がある程度は見えるほどに明るい。
まぁ、景色といっても先程から鍾乳石のようなゴツゴツとした歪な岩が壁としてなしているだけの変化のない一本道なのだが……
(ジメジメしてて本当に薄気味悪いわね。)
頭上の岩からぴちゃぴちゃと垂れる水滴の音と、足元には上から垂れた水が水溜まりを作っていて、そこを這う度にぱちゃぱちゃと洞窟内に響くので、尻尾に伝わる水の冷たさも相まって、アリシアはかなり不快に感じた。
不快感と不安が混じりあって、吐き気がするぐらい居心地が悪くなった為に、今はさっさと探索なんて終わらせて、早く帰りたいという気持ちが彼女にはあった。
やがて、探索が始まって暫くがたった後、窮屈な一本道を抜けて一行は広い空間のある場所に着いた。
暗い洞窟の中では如何しても、時間が分からなくなってしまうので、取り敢えず一行はそこで休憩を取ることにした。
「よし、みんなあそこで休もう。」
ベータは空間中央に3つあった、座るには丁度良さそうな表面が平らな石を見つけてそう言った。
だが、言うまでもなく3つしか座る場所はなかったので、誰かしかがはぶれることになった。
結局、はぶれたのはアリシアだった……のだが、残念そうな顔を浮かべる彼女が居た堪れなくなって、ゴンゾーが自分の場所を譲ってくれた。
「あ、ありがとう。
すごく嬉しいんだけど、貴方の場所を取ったようで申し訳ないわ」とやや気まずそうそうに言ったアリシアにゴンゾーは「問題ない、俺は地面に座るから」と仏頂面で言った。
席を譲ってくれた彼には申し訳ないとは思いながらも、本心としては彼女は好都合だと思った。
正直に言えば、ずっと水溜まりだらけのびちゃびちゃな地面を這うのはかなり辛かった。
それに、元々ゴルドのさらさらとした砂漠地帯を長年這ってきたものだから、ゴツゴツとした岩場には辟易していた。
だから、彼女は改めてゴンゾーの厚意にこの上ない笑顔で感謝を述べた。
すると、ゴンゾーは暗澹とした表情で「俺に出来る優しさはこれだけだから……」と声にならない声でそう言った。
そんな彼にアリシアは何を言えばいいのか分からず、ただ呆然と眺めていた。
喪失転生 異世界で強くなった俺は死んで2000年後にダンジョンとして復活していました。 @suginotoyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。喪失転生 異世界で強くなった俺は死んで2000年後にダンジョンとして復活していました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます