入らないで

 気持ち悪い、って思うの。時々。


 彼と別れた後、暑くなった身体が、息苦しいほど鼓動した心臓が、次に息をした瞬間に急に冷まされる。そんな時がある。


 幸せだった。全身が喜んでいた。わたしとは違う形の同じ種族の生き物が隣にいるだけで。無敵。優越感。


 それから急に突き落とされる。絶望する。女である自分。男に媚びる自分。自分の価値を「女」で定義して、「男」に定めてもらうことしかできない、浅ましさ。


 ぞっとする。

 何もかも断ち切ってしまいたくなる。でも、女が1人で生きる未来はいつもどこかに影がつきまとう。だからわたしは媚びるしかない。


 女が女にしかない武器を手入れして武装して、でも女らしく女として「物騒なものなんかもってません」って、「なんにももってないんです」ってスタンスで、男に会わなきゃいけない。


 気持ち悪い。

 そうやって必死に男に認められながら、硬い外側で囲いすぎて私も見えなくなった私の弱いところが叫んでる。


 私の中に入らないで。

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加科のくず 加科タオ @ka47

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