詩話

 朝になった。恵子は仕事に出かけ、今、家に居るのは私1匹だけだ。私はガラスケースから出てテレビのリモコンの電源ボタンを押してテレビをつける。このくらいの大きさの私は力も大きさに比例しているらしく、だから私が森の中で長く生き延びれたのだと思う。ただ、気を抜くと力の加減を間違えて、リモコンを破壊しかねないからそこには注意しなければならない。

 テレビではニュースが報道されていた。ニュースの内容はとても平和なものばかりで、ヒトの世はとても平和ボケをしている気がする。ただこんな都会から離れただけで、その場所の魔物に襲われてしまうのに、襲われて死んだニュースなど全く報道されない。しかも魔物は都会の中にも偶に出現している。何故、私がそれを知っているのかと言うと、私も魔物だからとしか言えない。魔物の目は特殊で、ほかの魔物が居る地域は色が変わって見えるのだ。


 『続いてのニュースです。昨日、深夜1時頃に変死体が発見されました――――』


 場所はウチの近くだった。私は窓に近づき下を眺めようとしたが止めて、情報をさらに探すことにした。




 ―――――――――――――――――――――




 情報収集に夢中でいると、そろそろ恵子が帰ってくる時間だった。私はテレビを消して、ガラスケースの中に戻る。


 「ただいまー」


 鍵は外され、恵子が家に入ってくる。


 「シュピンネちゃんただいま〜もうつ〜か〜れ〜た〜」


 資料を机の上に適当に放り投げて、私のいるガラスケースに近づく恵子。その資料は遠目から見ても、文字ばっかりでよく分からなかった。しかし、その資料が私にとって大事なものだとは思う。

 私は恵子がガラスケースの中から出してもらうと、直ぐに資料の方へと向かった。

 資料にはこう書かれていた。



 ―長い洞窟に彼女は眠る。


 ―長い洞窟に彼女は生きる。


 ―彼女は森の理であり、破壊する者でもある。


 ―女王の後継者は、女王の死の際に現れる。


 ―森はそれを疑わず、後継者を受け入れた。


 ―森の中では全てが廻る。


 ―生命も、傷跡も、記憶も、万物が廻る。


 ―故に、自然は不滅。


 ―故に、自然は文明を恨む。


 ―女王の逆鱗には触れるな。


 ―触れたら最後。


 ―世は、始まりから戻る。



 簡単に言うとうただ。森の賢者達が、文明に警告する為に詩った詩だ。私は女王を見たことはないが、崇拝している。それが義務であるように、私達は彼女を崇拝する。

 何故私がこの事を知っているのか、自分でも分からない。ただ、懐かしいとは思う。


 「こーらー。シュピンネちゃん、貴女は私を癒さないといけないでしょ」


 私が分からない感傷に浸っているところに、恵子に抱え上げられた。そしてそのまま抱えられながら、いつも通り恵子がカップ麺の容器にお湯を注ぎ、五分タイマーをセットしているとこを見る。この人間はよく分からない。

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シュピンネ まさみゃ〜(柾雅) @dufeghngnho

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