第12話 最終試験
私が家を出る14歳の時、ルティアスはまだ7歳だった。
彼はとにかく家の図書館に入り浸って本を読み漁っていて、何度か覗いたことがあるが魔法関連を特に読んでいるようだった。しかし、不幸な事に彼はディフェクターだった。
これは差別の対象となり、この領地内には流石にその事を悪くいうような輩は少なかったし、そもそも図書館から出てこないからルティアス自身も自分がどういう風に世間から見られているのか知らなかっただろう。
ただ彼が王都に出てきた時、その差別は明らかなものになるだろう。これはほぼ間違いない。
というのも、この世界はそもそも魔法を万能だと考える者が大半で、神に認められた証拠だとしこれを神聖化した。そして魔法を扱えない者達をディフェクターとして神の恩恵を受けられなかった穢れた存在として差別の対象とした。
この歴史はこの国が始まってから既にあったもので、もう少なくとも1000年以上は経つ。この世界で最も差別を意識するものであるほど根付いてしまっている。
もちろん、魔法の使えない人でも職はある。王都の文官にも何人かはいるだろう。その人達は恐らく故郷では英雄扱いされてるんじゃないだろうか。
だからこそ、彼が初めて剣術の訓練をした時には驚いた。なんとルティアスはそのアドバンテージをものともせずに魔法を扱ったのだ!
よくレオンと、あの子は確実に大物になるから自分たちもそれに負けないぐらいにならないといけないなんて話をしたものだ。
特に私の場合、冒険者は実力社会だ。強くならなければとても大物になどなれない。
もちろんお嫁に行くという手段もあったが、それだと未来は限られてしまう。いつの時代も男性上位なのは変わらないのだ。
……というのは建前で本当は素敵な殿方に見つけられないかとドキドキしていた程超乙女でありました。でも結局見つからなかったし、最終的には冒険者になって素敵な殿方を見つければいいかなと思いました。
そうして冒険者として磨きを掛けてきた。ルティアスが王都に出てきた時、胸を張れる姉でいられるようにと。
それから私は学園を主席で卒業し、仲間にも恵まれてすぐにA級冒険者となることが出来た。なんでも1年以内にA級に上がれたのはここ数十年で私達だけらしい。
父からの手紙で、レオンとルティアスは相当力を付けているのが伺えた。
ルティアスはもうすぐ学園へ入学することになる。
その時に彼は領内にいる時とは変わって差別されることがかなり多くなるだろう。ここには父も母もレオンもいない。だからこの王都で彼を守っていくのは私だと張り切っていた。
そんな彼が今、目の前で有り得ない事を成し遂げた。
「次は1対1ですよね?」
そう言ってルーア先生の元へやって来た彼はやはりクラッセルの戦士の血をしっかり受け継いでいるんだなと感動した。
「……カミラ姉さん……?」
「久しぶり!ルティアス!」
「ちょっ、カミラ姉さん!?」
そうして彼に抱きついた。あれから1度も実家に顔を出していなかったし、久しぶりの我が家の匂いを堪能した。
「レオンに聞いたわよ。 随分強くなったのね」
ようやくホールドから開放されたルティアスは昔の面影を残したままの大人びた姉に見蕩れた。
まさかここまで美人になっているとは思わなかった。まだ幼く可愛らしさの残っていたあの頃とは別人みたいだ。
「カミラ姉さんも、随分と美人になりました」
「あら、そんなことも言えるようになっちゃったの!?」
「いてっ」
社交辞令ではなく率直な気持ちだったのだが、思いっきり叩かれた。カミラ姉さんの言動は幼いままのようだ。
「まさか、あなたの弟さんだったなんて」
「強いでしょ?」
「え、ええ…」
いまだに信じられないものを見たといった感じで惚けている先生方は、カミラとルティアスを目で行ったり来たりしている。
そんなことはお構い無しとカミラは競技場の真ん中へと移動する。ルティアスもテントから武器を取って移動する。
「さて、最終試験です。」
「はい」
「姉ではなく敵として見なさいルティアス」
「え、でも」
「じゃないと痛い目みるわよ?」
そう言ってカミラが目の前から突然消えた。その瞬間上から物凄い悪寒がしたルティアスは咄嗟に前に飛んだ。そのまま着地する前に加速付与魔法を使用する。
着地した瞬間後ろから爆風と土煙が舞う。
「やるじゃない」
「……」
(速い……!)
レオンよりも剛よりの剣術を扱うカミラは、速さと力がずば抜けて高い。先程のを反応できたのも父の訓練のお陰だろう。
そのまましばらくは避けに転じた。彼女がどの程度の力か見定めなければならない。
正直レオンを追い詰めたことが何度かあるルティアスはこの勝負舐めていた。さらに言えば、いくら姉とはいえ本気で来るはずないと。
そう思っていたのだが。
「あらルティアス、遅いわよ?」
「くっそ…!」
かなり本気である。付与魔法でかなり上げているはずなのに避けることもままならない。彼女と同じ土俵で戦うのは確実に不利だ。
しかし得意分野の魔法で遠距離からというのも難しいだろう。そもそもすぐに距離を詰められてしまう。
ならばと、接近した瞬間に地面に剣を突き立てる。
「グラウンド・クラック!」
「っ」
すると地面に亀裂が走り、盛り上がり始める。
「ロック・ショット!」
そこから零れ出た石礫を集中させ、岩の弾丸を浴びせる。
だがこれで終わるほどカミラ姉さんは弱くない。彼女を中心にして最大重力をかける。
既にレオンが動けていたのを確認していたので、ならば自分から相手を突き放して自分はエリア外にいれば、ある程度の遠距離戦に持ち込めるのではないかと考えた。
これなら彼女も簡単には手を出せまいと思っていたのだが、
「私の勝ちね、ルティアス」
「なっ」
気づけば背後から首筋に剣を当てられていた。
ルティアスは戦慄した。
(なんでこの人たちは動けるんだ!?)
重力の檻にカミラを閉じ込めたルティアスは、この気を逃さないようにありとあらゆる攻撃魔法を放った。しかし彼女は一瞬動きが鈍っただけで、真紅の靄のようなものが彼女を包み込んだ瞬間嘘のように動き回り始めたのだ。
そこからは完全に負けゲームだ。
結局カミラに負け、試験は終わりを迎えた。
それから合格通知が届く1週間、自分の部屋で本をひたすら読み漁っていった。
「なんでレオン兄さんもカミラ姉さんも重力の魔法が効かないんだ?………カミラ姉さんはレオン兄さんとはまた違った守り方をしていたようだし……」
ぶつぶつと言いながらも多くの魔法書を調べたが、それらしきものは発見出来なかった。
カミラ姉さんにもはぐらかされてしまったから、こればかりはどちらも自分で探せという事なのだろう。
「これは長くなりそうだ……」
そして1週間後、ルティアスの元に合格通知と共に主席合格者学費免除の通知が届いた。
☆ ☆ ☆
「おかしいです……」
「どったのハニエル?」
ここはイデア。神々と天使が住まう全ての世界の中間地点。
その一角でハニエルは目の前の映像を見ながら困惑していた。
以前異世界へと送り届けた幸運の少年ルティアスだが、流石に魔法が使えないのは可愛そうだと、せめて戦う術を学びやすい環境のそこそこ武術に優れた貴族の家に転生させた。
そこまでは良かったのだが、問題は他の兄弟達が本来なら伝説でしかありえない技を使ったのだ。本来なら100年はかかる習得技をどちらも1年以内に習得してみせた。
父親は元から伝説の一つを使用できることは知っていたが、あれは遺伝でどうにかなるものでは無い。ましてや姉のカミラが使っていたのは遺伝とは全く関係ない技なのだ。
だからハニエルは困惑していた。
「あの男……」
恐らくそんな事が出来るのはルティアスの影響が大きいということを悟り、思わず溜め息をつく。
ハニエルはルティアスを特異点と定め、彼の周囲に及ぼす影響が最小限になるように調節を始める。
具体的には彼自身の不幸指数を上げたり、世界の情勢を少し悪い方向にしたりだ。
「彼がこのまま行くのであれば、また前回と同じ結末を迎えてしまいます……」
そう言って隣の映像を見る。そこにはかつてルティアスの前の人物がいた世界。彼という特異点を許してしまった成れの果て。大地は焦土と化し、人類は滅亡の一途を辿っている。この世界を改善する方法はもう無い。1度世界をリセットさせ、新たな世界を作るしかないのだ。
「こんなこと繰り返してたら、私の首が飛ぶのですが……とほほ……」
ハニエルは今度こそ世界が壊れないように祈るのだった。
異世界に転生したけど幸運はそのままだったようです(仮題) 音近 @akanecon
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