茶髪 三十と一夜の短篇18回

白川津 中々

第1話

 人がひしめく週末の繁華街。なんとも心踊る。

 会社帰りの一杯を終え、どう遊ぶかを考えるこの時間は嫌いではない。旅行の計画を立てるのと同じで、未体験への想像が実態のない喜びを作り出すのだ。まだ見ぬ女への欲望は果てしない。馴染みの店がないものだから些か不便ではあるが、こういう楽しみ方もおつである。


「お兄さん。お遊びの方は!?」


「HiBrother! アソブバショアルヨ!」


「旦那! 今なら六万で全部できるよ!」


 凡骨な客引きを尻目に店を物色。アホを相手にするキャッチの言葉など聞く耳持たん。ここはやはり案内所だ。なんだかんだで安心安全の保証は大きい。





「マットサービスを希望する!」


 下品な垂れ幕を潜り開口一番大発声。途端にスーツを着崩した茶髪が笑顔で対応。よしよし。教育は行き届いているようだ。


「マットっすか。丁度いい店あるんで、TELってみまーっしゅ!」


 ふざけた日本語だがまぁ良し。そもふざけたサービスなのだからこれくらいのふざけ具合の方が逆にふざけてないともいえる。よろしい。ここは奴に付き合ってこちらもふざけ返してやろうではないか。


「よろしゃーっす! 諭吉ちゃん三枚くらいのマネーバランスでChoiceToChoice」


「お客さん面白いっすね! うぇーいっしゅ!」


 交わすハイタッチには友情の音が含まれていた。俺と茶髪は既に親友マヴダチ。絆は強く硬い。


「しゃーす。うぇいうぇい。あーしゃーす。なーほしゃす。へーしゃす。あしゃす。ご贔屓にどもー」


 さっぱり分からぬ言語で電話TELっていた茶髪がこちらにやってきた。満面の笑みが嫌でも期待を膨らませる。


「お客さん。諭吉ゆきっちゃん三枚でもいけんすけどぉ。向こうさんがあと二枚ageてくれたらガチなサービスForYouって感じらしっす! 当然いけますよね!」


 計五万か……正直痛い出費だが、茶髪の笑顔に答えぬわけにもいかぬな。よろしい! 見せよう男を! 通そう粋を! 大和魂御覧じろ! 


「おーきーどーきー! HeavenへのStairway

駆け抜けちゃう?」


「おーうぇい! 卍ー!」


「卍ー!」



 見ろ。茶髪のなんと無邪気な笑顔であろう。二万で友情が買え、しかも見栄を張れるのだ。この程度の出費、安いくらいではないか。なぁにたかだか二万の追加だ。三日ほど飯を抜けばなんとかなろう。大切なのは友情。その繋がりは遊女。互いの信頼は有情である。


「では、御案内いたしまー! 行きまっしゅ! バリ上げテンション青天井でうぃーっしゅ!」


「うぃーっしゅ!」




 その日。俺は五万で不細工を掴まされ最低のサービスを受けた。具体的にいうと冷たいローションをケチられ、ほぼ水のまま不細工に股がられ身体中に青痣を作られた上に性病を移された。後に聞いた話なのだが、俺が紹介された店は一万で釣りが来る格安店であったとのことである。差額の四万が誰の懐に収まったのかは、知る由もない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

茶髪 三十と一夜の短篇18回 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説