細かな背景描写と共に描かれる心理描写。
随所で語られる様々な海外の作品群が話を一気に広げていきます。
物語りの冒頭で語られる世界から出発する「彼」は、知らないまま、まるで正反対の世の中に自ら足を踏み込みます。
それまで、閉ざしていた目と耳を、無理やり一気にこじ開けられるような鋭い痛みを味わう苦悩。
各所にちりばめられた歴史と文学。
あたかもそれは、ある種の警告を与え続けたはずだというメッセージ。
それを「彼」は知っているが、世の中はこうなった。
目を閉ざしていただけではない。
耳をふさいでいただけではない。
口も閉ざしていたのだと、「彼」を通して私たちに警告している気がします。
そして物語の核となる、心を無くした世の中をさまよう少女。
その瞳は世の中を克明に記録しているのでしょう。
それがどのようになるのかは、この物語を読んだ人が考える必要があると思います。「彼」のようにどうすることもできなくなる前に。