第6話 出会った日 第一秘書 百瀬 香

出会い頭に男女がぶつかった。


それは、教室を出た雄太と階段からフロアに出ようとする香だった。


 「つっ…ごめんないさい。大丈夫ですか?」


先に声を掛けたのは香だったが、当の雄太本人はビクともしていない。中性的な顔つきでその体が華奢に見えても、物心ついた時から野球一筋で生きてきた雄太にとって、女性の突進程度では問題なかった。


 「いや…こちらこそすいません。って

   大丈夫ですか?

  僕の不注意ですいません。」


肉体とは別に、精神的に動揺するのが雄太である。もちろん、先程のデザイン教室での一件が入社試験だと勝手に判断している雄太にとって、会社で少しでも問題を起こしたくないのが本心だ。


 「ほんとにすいません、大丈夫ですか?」


そういって、尻もちをついてる香に手を差し出す雄太だったが、香の…その顔面を見て硬直した。


  ≪すげ~まじですげ~美人≫


雄太はそう思うとその視線は、尻もちをついた為にタイトスカートなのにその足を広げた香の下半身にへと移っていった。


  ≪すげっ…エロい≫


雄太はガン見てしまった。だからこそ、雄太はその罪悪感から、そして紳士な所を見せたいカッコつけから、自分は何も見ていないとアピールする。すなわち、雄太は顔はそっぽを向いて手だけ差し伸べるという行動を取ったのだった。


 「ありがと。デザイン教室の人?

  こちらこそ、本当にごめんなさいね」


香はそんな雄太に微笑む。

男性からの視線を感じ慣れている香にとって,一瞬の視線は感じたものの、

その後の雄太の態度は、すごく微笑ましいモノで、

胸がキュンとする久方感じたことのない感情を植え付けさせていた。


香は雄太の手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。

身長は雄太とほぼ同じではあるが、ヒールを履けば、雄太を見下ろすような状態になる。

香はそこで雄太の顔をまじまじと見つめた。


雄太はもちろん、香と目を合わすことになるが、香が雄太を見つめるので、完全に 照れてしまい、やや俯くとチラチラと香の表情を伺った。


  ≪やっぱすげ~キレい。

   こういう人と仕事するって幸せだよなぁ

   だって日常だよ?毎日だよ?

   同じ会社ってだけでテンションあがるわぁ≫


雄太が妄想にどんどん進行しようとすると


 「もう帰りなのよね?

  出口まで送るわ」


と、香から声が掛かった。


  ≪声もいい。なんかの音色みたいだ。

   この人完璧じゃん≫


雄太はトリップを始める。

すると香は雄太の手を離さないままロビーへと進んで行った。


  ≪びじょとてをつないであるく≫


それはまさに雄太の夢の一つが叶った瞬間だった。その表情かおは既にデレデレだ。鼻の下を伸ばすどころか、顔はまっ赤になってしまっている。一気に頭に血が上ってフラついてしまうぐらいだ。


 「少しフラついてる?

  顔も赤くなってるし…

  本当に大丈夫?」


心配そうな香が雄太の顔を覗き込む。それはあまりに至近で、雄太は妄想からキスされると勘違いし、一瞬、瞳を閉じてしまうぐらいだ。


 「マジで大丈夫です。

  こんな美人さんと会話したことなんかなくて

  ちょっと…舞い上がっちゃって」


雄太からしてみれば、あとから「なにいってんだよ俺は…」と後悔してもしてもしたりないぐらい言葉だが、香はそんな言葉にやや嬉しそうな表情を浮かべて


 「あら?

  これも新手もナンパかしら?

  君だったら乗っちゃうかなぁ??

  あっお昼まだでしょ?

  時間あるなら一緒にお昼しよっか?

  お詫びにおごるわよ

   って言っても今ちょっと立て込んでてね。

   1時間くらい待たせちゃうかもよ?」


 「マジっすか?

  はい。時間はず~っとあります。

   ぜんぜん待ちますよ!!

  ぜひ、ご一緒したいでしゅ」


  ≪俺、しゅって言った。

   すげーカッコ悪い…≫


そんな雄太の心情とは裏腹に香は、ニコリと微笑みを浮べる。


  ≪きたぁ~大人の美人だけが持つスキル。

   魅惑の微笑み…写真集の中だけかと思ってたぁ≫




この時、すでに香にとって、取締の友人の息子のことなど

大した問題ではなくなっていた。

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行先はいつも俺の意思じゃない? Ash @ahshiz

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