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第1話 

 遠い昔のことだ。若かりし頃、少し暇があったので大陸を見て回る旅をしたことがある。今では滅びた国や、鎖国で入れなくなった国にも行ったのが懐かしい。東の果てに見た景色を忘れることはないだろう。

 その旅の最中、私はとある森で老人に会った。

「ほう!西の果てから!それは疲れたことじゃろう」

そう言って彼は住まいで休ませてくれた。話を聞いていると、彼はこの森の中で長らく独り身なのだという。

「時々街には行くがのぅ。こんな風に人と話したのは久しぶりじゃ」

と言っていた。そこで二晩程お世話になった。出発する際に、彼から古びた袋を渡された。

「これも何かの縁じゃ。この袋からは三回だけ願ったものを出すことができる。わしが持っていても仕方がないし、これからの旅に役にたつこともあるじゃろう。持っていきなされ」

私は半信半疑だったが、あって困るほどの大きさのものでもない。有り難くいただいていくことにした。

 それからしばらくして、その袋のことを忘れた頃のことになる。私は遭難した。どことも知れぬ密林の中、手持ちの食糧は尽き、死を覚悟した。そんな経験は生まれてこの方その時だけである。そんな時、私は以前老人から貰った袋の存在を思い出した。試す前に使うのも勿体ない。食べ物が出るといいなぁと思い、

「何か食べ物を!」

と叫びながら手を入れた。

 果たして、それまで空だった袋の中には何やら物体が入っている。取り出してみると、皿とその上に山盛りの黄色いものが載っていた。スプーンも付いている。食材は卵のようだった。こんな料理は知らないな、と思いつつ、飢えて死ぬよりは知らないものでも食べたほうがマシと思い、口にした。

 その瞬間のことは今でも忘れられない。卵の下には赤く着色された穀物が入っていた。それは旅の途中、南国で見たものに似ていた。それらを口に運ぶと、卵の味がとろけるように口に広がった。穀物は着色されているだけでなく、少し甘く、そして塩辛く味付けされていた。こんなものは初めて食べた!私は夢中になって平らげ、二度、三度と袋の中から同じものを取り出し、食べた。

 その後、私は密林から抜け出せ、今でも生きているわけだが、あの時食べたもの程美味かったものには今まで出会えていない。

 さて、私の老い先も短い。二度とあれと出会える日は来ないのだろう。しかし、願いが叶うならば。あれをもう一度……。

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