俺、拓真。三十歳の魔法使いだ!

今晩葉ミチル

天才的な俺は考えた

 俺は拓真たくま、魔法使いだ。

 得意の召喚魔法で数々の死線を潜り抜けてきた天才だ。

 だが、そんな俺にも悩みがある。


 三十歳にして童貞である。


 お嫁さんがほしい。優れた血が途絶えるのは惜しい。

 だが、俺の才能を不気味に感じたためか、メス共が誰も寄ってこないのだ。憤慨ものだが、か弱いメス共を襲うのもポリシーに反する。

 このままではまずい。

 そこで天才的な俺は考えた。

 お嫁さんを召喚すればいい。しかし、ただのメスではすぐに逃げてしまうだろう。

 みんなが寝静まったのを見計らう。

 儀式は森の中で行う。

 全裸で。

 もちろん、邪念を払うためだ。集中するには、余計なものはない方が良い。

 石を集めて逆五芒星を描き、その中心で呪文を唱える。唱えた言葉は闇夜に響き、異界の者を呼び寄せる。

 俺の目の前で、瘴気と甘い香りが広がる。瘴気は闇より黒く、夜より深い。決して見てはならない心の深淵を思わせる。そんな深淵から、花の香りが漂うのだ。

 凡人なら何が起きたのか理解できず、惑わされただろう。

 しかし、俺は分かっている。召喚が成功したのだ。

 名前を呼んでやる。

「姿を現せ、サキュバス」

 甘い香りのする瘴気は、渦を巻く。渦が虚空に消えると少女が現れた。豊満な胸と尻に、しなやかな尻尾。蝙蝠の翼が妖しく輝いている。彼女を覆う布の面積が少ないのは、夢魔だからだ。気の強そうな赤い瞳は嫌いではない。

 夢魔の割にあどけない表情をしている。初夜を迎える相手にふさわしい。

 いい塩梅だと思った。

 しかし、サキュバスは両目を見開いて、あろうことか悲鳴をあげた。


「何これ大きい!」


 俺を指さしながら慌てふためていているようだ。頬を赤らめて口をパクパクしている。

「……悪魔のセリフとは思えないな」

「だって、大きいんだもん! こんなの見た事がないよ。ねぇ、本当に私は君とやらなくちゃいけないの?」

 甲高い声にイライラが募る。大気の精霊を呼んでぶっ飛ばそうか検討する。しかし、あんまりこっぴどくやると逃げられるだろう。子孫を残すためだ。我慢我慢。

 落ち着いた口調を心がける。

「おまえは俺が召喚した。おまえは俺に従う義務がある」

「えー、イケメンとやりたーい」

 こ、こいつ……。

 たいがいのメスは俺を見た途端に、憧れと畏怖を込めた歓声をあげるというのに。流氷をぶつけて頭を冷やしてもらおうか。

 いや、子作りのためだ。堪えろ。

 俺のイケメンっぷりをこの馬鹿女に教えてやろう。

「よく見ろ、俺は男前だ。頑丈な身体、艶のある黒い肌、極め付けはこのたくましいツノだ」

 高々と振り上げて、見せつけてやる。闇夜だが、夢魔の目ならこの黒々とした雄々しいツノが分かるだろう。

 しかし、サキュバスは全身を震わせていた。口元に両手を当てて、おろおろしている。

「こんなの無理だよぉ」

「焦る必要はない。いずれ俺の子供を産んでくれればいい」

「そんなぁ……」

 サキュバスは地面にへたりこんだ。

「カブトムシとやっちゃう方法なんて知らないよぉ」

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俺、拓真。三十歳の魔法使いだ! 今晩葉ミチル @konmitiru123

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