本日、逆年功序列制度が施行されました

ちびまるフォイ

男の需要はいつだって・・・

「それでは、逆年功序列制度を施行いたします」


「「「 異議なし!! 」」」


ニュースではいろいろと騒がれているがスルーしていた。


「あなた、仕事遅刻するわよ」

「あ、ああ」


会社に向かう足取りも軽いのは給料日だからか。

給与明細を見るまでは気分も晴れやかだった。


「な、なんですかこれは!?」


「いや、この金額で合ってるよ。不服かね?」


「不服もなにも……給料が半分になってるじゃないですか!?

 家のローンも子供の養育費もまだ残ってるんですよ!?」


「君、テレビ見てないのかね? 逆年功序列制度だよ」


「ぎゃくねんこうじょれつ……」


「最近ね、若い子が働かないんだよ。欲もないからお金も使わない。

 かといって、年寄りがお金を手にしても使わないだろう?」


「は、はぁ……」


「歳をとるほど給料が減っていくから逆年功序列制度だよ」


「ぜんぜん納得できません!」


「いや大丈夫だよ、もちろん救済策も用意してある。

 基本給は下がってもスキルに応じて給料も底上げするから」


「スキル、ですか……」


家に帰って給与明細を見せると妻は鬼の形相になった。


「ちょっとどういうこと!?」


「今日から逆年功序列制度になったんだよ……。

 歳をとるほど給料が安くなるからしょうがないんだよ」


「それじゃあなたの給料は新入社員以下ってこと!?」


「若い子は体力あるし、たくさん仕事できるから……」


「んなこと知らないわよ! スキルでもなんでもいいから給料あげなさい!」


「ひええええ!」


逆年功序列制度に後押しされるようにして、休日にパソコン教室へと通うことに。

周りを見渡せば同じことになっているのか高齢者が多い。


「みなさん、では初歩的なパソコンの扱い方から学んでいきましょう。

 ここでスキルアップして会社に認められて、給料も増えますよ!」


「「「 おぉー 」」」


これでも会社に一筋40年。スマホはできないがパソコンならお手の物。


「では、エクセルのマクロを組んでみましょう。テキストの2ページを開いて」


「ま、まくろ……?」


築地に出てくるあれだろうか。


「ああ、ちがいます。関連付けがまちがっていますよ。

 それにその表の関数も1つずつズレています」


「え、ええ……?」


講師が若いからだろうか。ジェネレーションギャップなのか。

言っていることの半分もわからない。


講座が終わるころには心も体もぐったりしていた。


「歳をとるとこんなにもついていけなくなるのか……」


体は老いてもまだまだ現役のはずだった。

ここまで吸収力が悪くなっているとは自覚していなかった。


パソコン講座はいつしか呪文朗読会となり、

会社では自分より給料の高い若手社員がばりばり働くようになった。


「課長、そこ入力ミスってますよ。便利なアプリあるんで落としてください」


「いやそのアプリの使い方がわからない……」


「はぁ? え、マジっすか? こんなの見れば使い方わかるっしょ」


「使い慣れてないものは使えないんだよ……」


「もーー。これだから年寄りは嫌なんだよぉ。

 逆年功序列制度だからよかったけど、前までは俺より給料あったんでしょ?

 これしか仕事できないのに信じられないっすわ」


「おまっ……!!」


給料日に若手に年の功(物理)をたたきつけた後、

上司にはこっぴどく叱られて給与明細を持って家に帰った。

そして、ふたたびこっぴどく叱られた。


「ちょっと!! ぜんぜん給料上がってないじゃない!?

 休日のパソコン教室と英会話レッスンと絵画セミナーはどうしたの!」


「いやその……初日だけでもう全然ついていけなくて……。

 最近じゃ講師が宇宙人に見えてきたんだよ」


「スキルアップできないならお金の無駄じゃない!!

 もういい! 私が働くわ!!」


「うそぉ!? お前、専業主婦一筋だったじゃないか。

 それに俺よりも忘れっぽいし、俺以上に仕事遅いじゃないか」


「何言ってるの。仕事ができるってのは、早さじゃないのよ」


そう言った妻の横顔はスゴ腕ビジネスウーマンのそれだった。

俺の会社にヘルプとして入った妻と一緒に仕事をはじめた。


「おい、そこはちがうよ。入力はこうしないと」


「知らないわよ。こっちのがいいじゃない」


「でもほかの部署にも渡す資料だし……」


「女子はみんなこっちが良いって言うわ!!」


「女子って年齢でもないだろ!?」


結果:ぜんぜんダメでした。


妻としては頑張っているようだが、スキルはまだまだだった。

仕事には向き不向きがあるのだと痛感した。


やがてやってきた給料日。


「ふふふ、あなた。この給料でどちらが優秀かわかるのね」


「どういうことだ……?」


「私とあなたは同じ年齢でしょ? 逆年功序列があるから

 スキルの高さがイコール給料の高さにつながるのよ」


「はいはい」


なんでこんなに自信満々なのかわからないが、

ふたりでいっせーので封筒を開けて給料を比較した。


「んなっ……!! そんなばかな……!?」


「わーいわーい! 私の勝ちね! 私のが優秀~~♪」


妻の給料が上回っていた。

これには納得がいかずに上司へとひとりで直談判しに向かった。


「ちょっと! 俺より妻の給料が多いってどうなってるんですか!?

 明らかにスキルは俺の方が上でしょう!?」


「ああ、そうだな」


「ほら! だったらどうして妻のが給料多いんです!?」


「だって、女性だろう」


「そんなの不公平ですよ! 納得できません!」


部長はやれやれと顔を横に振った。


「君ね、逆年功序列制度は女性が含まれてないんだよ。

 女性は通常の年功序列制度、つまり歳をとるほど給料が増えるんだ」


「そんな……いったいどうして!?」





「そりゃ男が若い女の子ばかり求めるからだろうよ。

 女が歳をとったら誰も相手にしないだろう?」

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