究極の小説を生み出す装置、それは「E〇CEL」

無限の猿定理、それは無限に生きるお猿さんが、タイプライターを無限に打ち続けると、いつかはシェイクスピアの小説と全く同じ内容の文字列を打ち出すこともあるという、有名な思考実験の一つだ。

そして本作の作者によるキャッチコピーは『E〇CELで、無限の猿を作ろう。』
そう、このキャッチコピーの通り、本作ではプログラマである作者が表計算ソフト「E〇CEL」の様々な機能を使って、全くのランダムから意味のある文章を作り出そうとする壮大な実験が描かれているのである。

そして描かれる苦難の数々、作者は最初、実験の元ネタにちなんで「シェイクスピア」という文字列の生成に軽い気持ちで挑戦するが、このたった7文字ですら簡単にできない。
やがて「E〇CEL」の便利な機能を調べたり、様々な作業をPCに代行してもらうマクロを組んだりして効率化を図り、さらにPCをつけっぱなしにして試行回数も「億」を超えてどんどん作業の質も量もインフレしていくが、肝心の「シェイクスピア」は全く姿を見せず……。

ジャンル的にはSFだが、内容はどちらかと言えばエッセイ寄りだ。
だけどこういう途方もない発想を元にして、手探りしながら一歩ずつ目標に近づいていく。
本作のこうした部分にはSF作品が持つ紛れもないセンス・オブ・ワンダーを感じてしまうのだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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