きっと繋げて



 今日からまた学校が始まる。教科書と借りた本を鞄に突っ込み、僕は足早に家を出た。

 いつもの通学路。毎日横断歩道で僕らを誘導してくれるおじさんに挨拶をし、辺りを見渡す。


「おはよう、拓斗」

「おっはよー、悠一。なに、待ち伏せ?」

「そんなとこ」

「俺も愛されてんなー!」


 朝から元気のいい奴だ。変わらない様子に安堵しながら、二人並んで歩く。


「俺さ、ギターやるわ」


 普段と同じ口調で、拓斗はそう言った。


「勉強ももちろんする。きっと自分のためになるし、ここまで頑張ってるんだし疎かにしたくない。ギターもやりたい。……欲張りかな」

「ううん、いいと思うよ。拓斗ならどっちもできる」


 並木道は緑の匂いが色濃く香る。アスファルトの照り返しも、徐々に熱くなっている気がする。


「でも問題がさ、うちお隣さんが近いから騒音になるんじゃないかなーって思ってて」

「じゃあうちで弾く? うちだったら隣もそんなに近くないし、というか耳遠いじいちゃんとばあちゃんが隣だから」

「えっ、いいの?」

「うん。その代わりと言ってはだけど、勉強一緒にしない?」

「お? 悠一君がそんなこと言うなんて珍しい!」

「僕も勉強したくって」


 へー、と感心したように拓斗が僕の顔を覗き込んでくる。なんでなんで?とその顔が言っているので、仕方なく答えてやる。


「なんか、人の役に立ちたくて。でもそれには知識ないとダメだと思うし、生半可にしたくないんだ」


 我ながらとても気恥ずかしい。でも少しだけ、誇らしくもある。綾音さんもこんな気持ちだったんだろうか。


「ふむふむ、一緒に頑張りましょうな! 親友よ!」

「うわっ!」


 拓斗が肩に手を回してはしゃぎ始めた。通学路のため同じ学校の生徒もたくさんいる。周りの視線がチクチクと刺さる。


「わーかったから朝からやめろっ!」

「朝じゃなければいいのか? んじゃ夜に期待しよっ」


 周辺の人達がひそひそと顔を寄せ合う。僕は顔が熱くなるのを感じ、拓斗を睨み付けた。


「もうお前なんて知るかっ!」

「あ、あー! ごめんってば!」


 僕は拓斗を置いてダッシュする。学校に着くまで絶対に止まってやらない。




 背後で、厚底の下駄が鳴った気がした。でもそれは、きっと気のせいだった。







End





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地獄からの優しい連鎖 繭墨 花音 @kanon-mayuzumi

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