【 泣いた赤鬼 -by青鬼- 】
僕らは人間から恐れられている。
それは今も昔も変わらない。
だけど、僕らからしたら人間の方が恐ろしい。
人間よりも早く生まれた僕らは言葉を作り、文字を作り、物を作った。それを後から生まれた人間が、さも自分たちのもののように使い始めたのだ。
そして人間は僕らを忌み嫌い、勝手な噂ばかりをし、僕らに武器を構える。
僕らは、何もしていないのに……。
僕は、人間に父さんを殺された。
犬、猿、雉を連れたやつに殺された。
そいつは僕らの島に来るなりこう叫んだ。
桃太郎「自分は桃太郎。貴様ら鬼を倒しに来た! さぁ、かかって来い!」
鬼の親分だった父さんは「誤解だ」と話をつけに行った。けど、人間は話を聞かず父さんに斬りかかってきた。
桃太郎「誤解?? 馬鹿を言うな! そこにある宝物は何だ!! 人間から奪ったんだろう!? 鬼のくせに生意気な!」
人間は父さんをはじめ、女も子供も構わず斬っていった。
僕は友達の赤鬼と一緒に船に乗せられ、海を渡った。
どこかの島に着いたけど、そこには人間しかいない。しかも僕らを見ると悲鳴を上げ、石を投げてくる。
僕らは声を殺して森の奥へと逃げ隠れた。
しばらくして、森を通った人間の話で僕らの島が滅ぼされたことを知った。たぶん、僕ら以外生き残った鬼族はいないだろう。
僕らは森の奥で密かに暮らすことを決めた。
それから数年経って、僕らの住む森の奥に人間の子供がやってくるようになった。
赤鬼も、段々と人間に惹かれていった。
そんなある日、赤鬼は言った。
赤鬼「僕、人間と仲良くなりたい!」
青鬼「馬鹿! 何考えてるんだよ! あいつらは僕らの家族を殺したんだ! そんなやつらと仲良くするのか!?」
赤鬼「でも……それでも、人間が好きなんだ」
赤鬼は泣きながら、「友達が欲しい」と繰り返し呟く。そんな赤鬼を僕は呆れ顔で眺める他なかった。そしてある提案をする。
青鬼「……じゃあ、僕、村で暴れてくるね。そこに赤鬼くんが助けに来てよ。そうすれば君は村のヒーローだ!」
赤鬼「えっ……で、でも、そうしたら青鬼くんが悪者になっちゃうよ……」
青鬼「いいんだ、それで。君は人間の友達が欲しいんだろう?」
赤鬼「そ、そうだけど……」
青鬼「なら、これでいいさ」
そうして『赤鬼くんのお友達作ろう作戦』は決まった。
決行は翌日、陽が真上になった頃。僕が村を襲ったところに、赤鬼くんが退治にしくる。そしてこの僕らの住処で合流する……と、赤鬼くんには言ってある。
でも、僕はもう赤鬼くんに会う気はない。だって悪者とヒーローが仲良くなんてしていたら、ヒーローのことなんて誰も信じないだろう?
だから、僕は退治されたフリをした後、どこか遠くへ行くつもりだ。
もう、今日で赤鬼くんともお別れ……僕は1人になる。
僕は涙を流さないよう、仰向けになって眠りについた。
ーーーそして、翌日。
もうそろそろ陽も真上に差しかかる。ぼくは今まで過ごしてきた家を見た。
長い間過ごしてきたそこは、少し名残惜しく感じる。赤鬼くんとの思い出がたくさん詰まった家。
青鬼「……サヨナラ、赤鬼くん」
そう呟くと、僕は村へと向かった。村を襲うために。唯一の友のために。
村人は、やっぱり僕の姿を見るだけで怯えた。石を投げ、手にしていた桑を向けてくる。
……僕らは、何もしていないのに。何で、こんな思いをしなくちゃいけないんだろう。
赤鬼「やめろぉぉおおお!!」
青鬼「っ!?」
僕はいつの間にか下に向けていた顔を上げた。無意識に手が伸びる。
青鬼「赤鬼く…」
赤鬼「人間に何やってるんだ! お前みたいな悪い鬼なんて、どこかへ行ってしまえ!!」
赤鬼くんは人間と僕の間に立ち、僕に向かって両手を広げた。
最初からこうする予定だったのに、何でだろう……胸が、痛いや…。
青鬼「人間なんて……人間なんて、生まれてこなければよかったんだ!!」
僕はそれだけ言い残すと、村を飛び出した。
それから3年。
僕は最初の予定通り、赤鬼くんとは会っていない。
あの後、人間の友達は出来たかな? 仲良くしているかな?
本当はずっと離れていようと思っていたけど、やっぱり気になって、以前住んでいた山の上から村を覗いた。……けれど、赤鬼くんはどこにもいない。
青鬼「……家の、方かな?」
あの思い出の家に、君はまだ住んでいるんだろう。そう思った僕は家へと足を運んだ。
……だが、僕を迎えてくれたのは、しばらく誰も使用していないであろう廃れた家。ツルが巻きつき、戸は傾いている。
青鬼「なん、で……?」
僕は急いで村へと向かった。1人の村人を捕まえて聞く。
青鬼「赤鬼くんは!? 赤鬼くんはどこだよ!!」
僕の姿に怯えながらも、そいつは教えてくれた。
村人「ひっ……あ、あの鬼なら、村人全員で殺しちまったよ」
青鬼「……ころし、た…?」
村人「あ、あぁ。子供は助けてくれたあいつをヒーローだと言っていたが、儂ら大人には鬼と慣れ合うなんてとんでもなかった。だから、子供を使って、あいつを呼び出し、殺したんだよ。斧で何度も殴ってやったさ」
捕まえていた村人はそのことを思い出したらしく、最後の方には顔から恐怖が消えていた。自分たちは鬼に勝ったのだと、だから鬼など怖くないと言うかのように。
その時、僕の中の何かが壊れた。
青鬼「……くい……憎い…憎い憎い憎い憎い!! お前ら、全員殺してやる!!!」
僕は女、子供に限らず、我を忘れて村人全員を殺した。怒りで、憎しみで、僕の青かった身体はいつの間にか赤く変わっていた。
きっと赤鬼くんに呪われたんだ。何で村人を殺したのって。
ごめんね、赤鬼くん。
赤くなった鬼の頬に、一筋の涙が伝った。
Bad Ending..... ユキノシタ @Tukina_Kagura
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