【 赤ずきん -by狼- 】
僕は〈失敗作〉と呼ばれていた。
多くの野生の狼は研究者に捕まり、ウェアウルフになるための実験に使われた。
ある1匹は感情が昂ぶると人間の姿になる。
ある1匹は満月の夜になると人間の姿になる。
ある1匹は自分の意思で人間になれる。
次々と実験が成功していく中で、中途半端な僕が生まれた。
『人間の言葉を話せるだけの狼』
失敗作は要らないと森へ捨てられた。
かつての仲間の狼には「お前なんか仲間じゃない」と襲われた。
人間には「人の言葉を喋ってる、気持ち悪い」と武器を向けられた。
僕は人間にも、狼にも仲間に入れてもらえなくなった。
そんな中、森で一人彷徨っていると声をかけられた。警戒して距離をとったが、よく見ると相手はおばあちゃんだった。
おばあちゃんは目があまり見えていないのか、僕に色んなことを話してくれた。「話し相手が欲しかった」「また来て欲しい」と言われた。その言葉は僕を救ってくれた。でも僕の姿が見えてしまったら……そう考えると草むらから出ることは出来なかった。
そうして仲良くなった。
幾月が流れただろうか。おばあちゃんは次第に物忘れが酷くなっていった。僕のことも、孫のことも、終いには娘さんのことさえも分からなくなってしまった。それでも娘さんは毎日お世話をしに訪れていた。僕には何も出来なくて、毎日玄関に花を置いては遠くから眺めていた。
窓辺に置かれた花瓶の花が17本になった頃、娘さんは外に向かって僕を呼んだ。
娘「ねぇ、近くにいるんでしょう?? お母さん、もう長くはないの……だから、側にいてあげて!」
僕はのっそりと姿を現した。娘さんの驚いた顔を見て、僕は一歩後ろへ下がる。
娘「まっ、待って!! お母さんのお友達……よね?? どうぞ、中へ入って…」
その言葉に、僕は思わず固まってしまった。“友達”というキラキラしたものを僕が貰ってもいいのだろうか。次第に目の奥が熱くなるのがわかり、頭を下げたまま家の中へとお邪魔した。
中にはベッドに横になって、初めて会った頃より痩せ細ったおばあちゃんが居た。
狼「おばあ、ちゃん…」
おばあちゃん「可愛いねぇ。もっと近くでずっと見たかったよ。……アンタは誰だい? 見たことあると思ったけど、知らない子だね。ワンちゃん、迷子かい?」
おばあちゃんは記憶が飛んでしまっている。過去に、現在に、ぴょんぴょん飛んでしまっていて、口から出る言葉がチグハグだった。
狼「…おばあちゃん……ありがとう」
おばあちゃん「1人は寂しいからね。一緒に居てくれてありがとね。あの子は…赤ずきんちゃんはもう1人で泣いてないかしらね。1人は寒いのよ」
おばあちゃんはそれを最後に、何も言葉を口にしなくなった。そしてそのまま最期を迎えた。
娘さんがこの家は僕が使っていいと言ってくれた。そして、いつか赤ずきんに会ってほしいと頼まれた。
こんな僕に居場所ができた。こんな僕が必要とされた。夢のようなことが次々に起きたんだ…きっと、僕の命は長くはない。
それより、おばあちゃんは、この森の奥で寂しかったのだろう。赤ずきんという子は、1人で泣いているのだろう。そう考えると、こんな
娘さんは赤ずきんのことを教えてくれた。もとは他の名前があったらしい。だけど、その名前のせいで町でいじめられた。誰一人として友達が居なくなってしまった赤ずきんの遊び相手はおばあちゃん。おばあちゃんは中々元気を取り戻さない赤ずきんに[赤ずきん]をプレゼントした。
おばあちゃん「これはね、もうあなたの一部なの。だから、そうねぇ……赤ずきんちゃんって名前はどうかしら? あなたなら、これからどんな風にも変われるわ。名前だって変わったでしょう? 大丈夫よ。おばあちゃんが付いているから」
娘さんが言っていた。「お母さんは人を笑顔にさせる魔法が使えるのよ」と。嘘のように聞こえるそれは、きっと本物なんだ。だって、今、僕と赤ずきんは笑えているから。
赤ずきん「狼さん? …どうかしたの?」
狼「……ううん。何でもないよ」
赤ずきん「じゃあ、今度はこれをしましょう!」
狼「うん」
日常と化していたこの風景に、この時何故だか過去を思い出していた。胸が苦しくて、涙が出そうで……それを必死に堪えていた。そんな時、コンコンとノックをする人が現れた。
…この時、おかしいと思うべきだった。怪しいと疑うべきだった。なのに……涙を堪えるのに必死で何も考えていなかった。
狼「どちら様ですか?」
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