上を向いて登ろう

「次回からご利用になられる際は、正会員への登録が必要となりますが、いかがされますか?」

 リアルの美風さんが俺の顔を覗き込む。


 ——正会員への登録。


 ついにこの時が来たかと、俺の心は身構える。登録料の五千円は、やはり大きい。

「正会員になられますと、いろいろな特典をご利用できますよ。個人的にお勧めなのが、背負式登山ビューカメラの無料貸し出しです」

 背負式登山ビューカメラ? なんだそれ?

 不思議そうな顔をする俺に、美風さんは説明してくれる。

「当店のバーチャル登山に用いている画像は、その登山ビューカメラで実際に撮影されたものなんです。現在は、スタッフが撮影したデータがほとんどなのですが、会員様からのデータ提供も受け付けていて、バーチャル登山として体験することができるんですよ」

 へえ~、会員が撮影したデータで、会員がバーチャル登山を楽しむ。これはなかなか面白そうなシステムだ。高評価が得られれば、撮影に対するやりがいも生まれてくるに違いない。

「それで、たくさんの方が楽しまれているデータを撮影された会員様には、月末にボーナスが支給されることになっているんです」

 それはすごい。でもお金がもらえるという訳ではないのだろう。

「ボーナスって?」

「無料チケット十枚分、もしくはサポーター撮影会の参加券です。後者を選ばれますと、背負式登山ビューカメラを装着して、サポーターと一緒に実際の山に登っていただけます」


 ええっ、それって……?

 リアルな美風さんとリアルな山に登って、リアルなお尻を眺めながら撮影できるということ!?


「他にも正会員様への特典はあります。これは、個人的にはあまりお勧めしたくはないのですが、ぜひ勧めろという会社の方針なので……」

 急にもじもじし始めた美風さん。

 先ほどのサポーター撮影会も魅力的だったが、さらに美風さんに関連するオプションがあるというのだろうか?

「チケットを何枚か追加していただくことで、バーチャルサポーターの服装を変えることができるんです。OL風のタイトスカートとかメイド服や水着など、実際の登山では絶対にありえ無いような服装にしていただくことも可能です。今のところの一番人気は、女子高生風の制服なのですが……」

 な、なんだってぇぇぇッ!?

 恥ずかしそうに顔を赤く染めて俯く美風さんを見ながら、俺は激しく逡巡する。

 見てみたい、でも彼女に申し訳ない、だがやっぱり見てみたい——



 即座に入会を決めた俺は、毎週のように『上を向いて登ろう』に通っている。そしてバーチャル登山で汗を流す、一時間あたり五千円くらいを支払って。

 どんなオプションを選択しているのかは内緒だ。

 今日も俺は、上を向いて登っている。




 了

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上を向いて登ろう つとむュー @tsutomyu

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