書類ハンター:ワールド

ちびまるフォイ

書類申請ないとなにもできません

今朝の許可書類がポストに投函された。


「さて、と。名前書いておかないとな」


ポストから数十枚の書類を取り出して名前を書いて印鑑を押す。

いつでも使えるように下準備するのは大事。


すべての許可に書類提出が義務づけられたことで、

面倒にはなったけれど、信号無視したりといったルールを破る人が減った。


「外出ですか?」

「はい」


「書類提出をお願いします」


玄関を開けると外にいる役所人間に書類を渡す。


「外出許可します」


書類審査が通って初めて外出ができる。

仕事に行く前に朝食を買おうとコンビニに寄った。


レジに商品と書類を置く。


「いったん書類審査しまーす」


店員は書類をレジ横の機会に入れて申請を行う。


「はい、大丈夫です。お会計400円になりまーす」


コンビニを出て会社に向かう。

書類の総枚数は決まっているので無駄使いはできない。


それだけに、ムダな行動が減ったのは良い事だと言える。


電車に乗るとちょうど目の前の席が空いた。


「ここ座っていいですか?」


書類を見せる。


「許可します」

「ありがとうございます」


今日は書類を使う予定もあまりないので電車で座ることにした。

みんな書類消費を恐れて電車では立っていることが多い。


と、つかの間の安息を楽しんでいると目の前でおばあさんが倒れた。


「だ、大丈夫ですか!?」


「し、心臓が……」


そこに役所の人間が入る。


「許可なく話しかけることと補助することはできません」


「わかったよ! 審査すればいいだろ!」


おばあさんに話しかけるのと、人助けしていいかの書類を作成。

セクハラ等を防ぐために他人に話しかけるには事前申請が必須。


「おばあちゃん、大丈夫?」


「ああ、ありがとうね……。でも、もう大丈……ううっ」


「ぜんぜんダメじゃない!」


行き先を会社から病院へと変更しておばあちゃんを送った。


「診察には書類審査が必要です。どちらが書類を出しますか?」


「こんな状態でおばあちゃんが書類出せるわけないでしょ」


俺は書類を書いて提出した。

おばあちゃんは体調がよくなりたいそう感謝していた。


おそるおそる会社に行くと上司が怒鳴る許可書を持って待っていた。

許可したくなかったが、拒否するにも書類が必要。

もうかなりの書類を1日の序盤で浪費したので無駄遣いできない。


「……許可します」


「このクソ大事な時期に遅刻するとはなにごとだァーーッ!!!!」


鼓膜がびりびりと震えるほど怒鳴られた。

説教が終わってから誰かにグチりたかったがそれにも許可が必要。


「もう書類ないしなぁ……」


仕事終わりに晩御飯を買ったり、家に入るのにも書類がいる。

もうストックが尽きているので我慢するしかない。


悶々としたまま家に帰ってその日を終えた。


「明日になればまた書類が届くから、明日に思いっきり愚痴ろう」



翌日、いつものように郵便ポストを開いた。


「……あれ!? ない!?」


書類はなかった。

毎日欠かさず届いていた1日分の書類がない。


「おいおいうそだろ!? 昨日のぶんは使い切っちゃったのに!!」


ポストをひっくり返さんばかりの勢いで探すも見つからない。

なにかの手違いで届かなかったのか。


書類を作成している役所に電話することに。


『電話には事前に書類申請がないとおつなぎできません』


「ちくしょーー! だからその書類がないんだよぉ!!」


こうなったら直接役所にいくしかない。

外に出ると、役所の人間がずいと手を出した。


「外出許可書を拝見」


「それが今日のぶんが届いてないんですよ!

 だから提出するにも書類がないから困ってるんです!」


「……で?」


「いや、だから外出許可書出せませんって! わかるでしょ!?」


「書類無ければ許可は出せません。外出は許されません」


「もう! なんでわかってくれないんだよ!」


「緊急事態用の対応が必要でしたら、書類の申請をお願いします」


書類がないので外出もできなかった。

まずい。このままじゃ食事を取ることも家で生活することもできなくなる。


いったいどうすれば……。


「やるしかない……! 市役所に潜入するしか……!」


その日の夜、全身黒タイツに身を包んで市役所にやってきた。

無許可での外出。無許可での潜入。

もういくつ書類違反をしたかわからない。


でも、こっちは命がかかっている。

書類がなければこの先生活なんてできない。


「あった! あったぞ!」


ついに無記載の書類を手に入れた。

まるで宝の山のように白い書類が黄金色に輝いて見える。


そのとき、市役所の電気がパッとついた。


「お前! そこで何している!!」


その声に慌てて逃げ出すもテンパって出口どころか行き止まりに突進。

逃げ場を失っておろおろしていると、警察がやってきた。


「市役所に書類を盗みにくるとは大胆な男じゃないか」

「だが、我々の警備を甘く見られては困る」


「あ……ああ……」


もうだめだ。逃げられない。


いったん逮捕されれば書類の消費量が2倍にされて

1日の行動がぐっと制限されてしまう。最悪だ。


警察は獲物を前にしたハンターのように舌なめずりしている。


「さぁて、どうしてやろうかな」




「まずは手錠をつけてやりましょう。動けなくしないと」

「よし、じゃあ書類を書こう」


警察は手錠を付ける書類を書き始めた。


「パトカーに乗せて署まで運ぶからその許可書も必要だな」

「書きましょう」


パトカーの許可証も書いていく。


「もし逃走したらどうするか」

「逃走しても逮捕していい許可書を書いておけば安心です」


警察は逃げ出した犯人を捕まえる書類にサインをする。


「警察署についたら尋問してやるぞ」

「尋問の許可書を書きましょう」


「あ、あの……」


「おい貴様!! 書類で許可されてないのに話しかけるな!!」


「おとなしく待ってろ!

 この後、貴様を牢屋に入れる書類と食事を与える書類。

 それに、親族に伝える書類とテレビで報道する書類、

 さらに、トイレを使わせる書類と呼吸を許可する書類に

 まばたきを許可する書類と、あとはあとは……」


「隊長、あいつ逃げました!!」


「バカめ! 逃走用の書類はすでに書いただろうが!! 捕まえろ!」


「あっ! だ、ダメです!! 追えません!!」

「なにぃ!?」







「印鑑用意してませんでした……」


警察は遠ざかる俺の後ろ姿をはがゆそうに見送った。

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