第3章 対立する意見があるということ

 あれから数十分。エテス・タスの街から出たヴァリクの足は少し重かった。


「普通、毒持ってるやつを初めての依頼に持ってくるかな…」


 聞いた所、その毒というのは火傷に近い炎症が出る毒らしい。ようするに火傷しているのとさほど変わらないのである。

「冷やす物も必要だったかもしれない…」


 と、目の前に何やら輪っかに紙を貼りつけたようなモンスターが現れた。このモンスターこそがポイ・ズンである。


「き、来た!落ち着け落ち着け!!」


 輪っかと紙に触れてはいけない。なら、どこをどう触ればいいのか。そう考えていると、ポイ・ズンの方から動いてきた。みょいみょいと妙な動きで近づいてくる。

「き、気持ち悪っ! ってダメだ、とにかく暴れてるなら落ち着かせなきゃ!」


 とりあえず、ポーチを探るヴァリク。今は解毒薬と木の実しか入っていない。

「…木の実?そうだ、これを与えれば触らなくても倒せるかもしれない!」

 適当に木の実を取り出し、ポイ・ズンに向かってプルプルした手で転がした。するとポイ・ズンは、木の実の匂いを嗅いでいるようだ。どこに鼻があるのか分からないような構造をしているが。


「お前、鼻あるんだ…?」

 そして、紙を使ってくしゃくしゃと食べ始めたポイ・ズン。どちらかというとテニスボールを紙で包んでいるようにしか見えないが、数分後にはたいらげた。

「た、食べた」


 落ち着いたのか、満足げに去っていくポイ・ズン。


「出来た!!」


 喜んでいるのもつかの間、残りは1匹だ。探して早めに帰りたいヴァリクだった。


「残る木の実は4つ…まぁ、紙のど真ん中にぶつけなけりゃ大丈夫だよね?」


 ちなみにここ、荒地のど真ん中である。ずっとぶつぶつ喋っていたせいか、何やら気配を感じたヴァリク。

「誰?」

 振り返ると、そこに立っていたのは青い肌で少し尖った耳の長身の男。青い肌の種族は舞水ぶすい族と言い、主に湖のほとりに生息している。


「貴様、今何をしていた」

 威厳というより、威圧的に話しかけてくる長身の男。

「えっと、ポイ・ズンを落ち着かせに来てて」

 それを聞いた長身の男は、眉間をピクピクと動かした。怒っているようだ。

「ふむ…貴様もどうやら、ラジアルとかいう奴の手先らしいな」

「ラジアルさんを知っているんですか?ていうか、『手先』って…」

「お前は我々の敵だ。痛い目に遭いたくなければ、去るがいい」


どんっと突き飛ばされた、ヴァリク。


「な、何するんですか?!」

「『殲滅せんめつの会』の幹部、ベルゼン。そうお前らのギルド長に伝えれば全て分かるだろう。せいぜい文明が滅びるまで落ち着かせ続けるんだな」


去っていった、ベルゼンという男。


「…感じ悪いなああの人、ラジアルさんに恨みでもあるのかな」


 とりあえずもう一匹のポイ・ズンを探す事にしたヴァリク。数分後、ため池の近くを歩いていると、何か紙のような物が浮いているのを発見した。

「…ま、さか」


 近づいて見てみると、それは無抵抗で溺れているポイ・ズンだった。

「うわぁぁぁふやけちゃう、ふやけちゃう!!」

 つい勢いで、水からすくって助け出したヴァリク。

「あっ毒が!でも紙が!毒が!紙!毒!あああああ!!」


 慌てているヴァリクの存在に気づいたポイ・ズンは、身を振って水を振り落とした。そして、くにゃりと中心を曲げてお辞儀をした。


「えっ、ありがとうって?それほどでも…うわ、熱くなってきた」


 とにもかくにも、これで2匹落ち着かせる事には成功したのである。解毒薬を振りかけ、すり込みながら帰路につく事にしたヴァリクだった。



 そして、ギルドの受付でリルがニコニコしながら待っていた。

「おかえりなさいませ~!!その様子だと、一回毒受けちゃったみたいですね!」

「みたいですね!じゃないですよリルさん!!何で初っ端がどk」

「大丈夫ですよ、微毒ですから!それじゃあこれ、報酬になりますね!」

「…リルさん?話聞いてますか?」


 あまり話を聞かないが元気なリルの手から、報酬金100Plプラが支払われた。この世界の通貨は、プラという。

「あと、ギルドポイント20加算しておきますね!」

「ギルドポイントって?」

「貯まったらこの受付で手続きしてみて下さい!各種サービスが解禁されますので!まだ20ポイントじゃ何もできませんけどね!」


 各種サービスという言葉に少し浮かれたヴァリクだったが、用件を思い出した。

「そういえば、ラジアルさん…いや、ギルド長って今いますか?」

「ええ、『ギルド長の部屋』って所に!」

「『せんめつのかい』って所の幹部さんがラジアルさんの事を言ってて…ま、特に関係なさそうならいいんですけど」


 その名を聞いて、何かを感じ取ったかのように席を立ったリル。

「ギルド長呼んできます!」

 バタバタと受付後ろのドアから、ラジアルの所へ向かったリルだった。


「…やっぱりヤバい人なのかな」


 すぐにラジアルは来た。急に呼び出されたのもあるが、汗をかいていた。

「殲滅の会だって?!本当かい、ヴァリク君?!」

「はい、幹部のベルゼンって人が『お前は我々の敵だ』とか『せいぜい文明が滅びるまで落ち着かせ続けるんだな』とか…」


 目を丸くしたラジアル。

「殲滅の会は、モンスターを全滅させるのが目的の組織だよ、ヴァリク君」

「ぜ、全滅?!でもモンスターが暴れているのは人間が起こした悲劇だって、皆言ってるじゃないですか!?」


 ラジアルは、大きくため息をついた。

「残念ながら、そういう考えの人々もいるんだ。それが殲滅の会なんだよ。しかもそのベルゼンという男はここら辺の地区を担当している幹部だ…まずい事になったかもしれないね」

「あの、リルさん どれくらいまずい事なんですかそれって?」

「ようするにですね、入りたてのヴァリクさんが敵とみなされたって事です!」


 そうとう、まずい事だった。


「え、まだモンスターの相手するのだって怖いのに敵認定されたんですか!?」

「しかも、幹部から幹部へ、上層部や下っ端にまでその情報は行き届いたかもしれない。すまないヴァリク君、私がもっと幹部の目撃情報を集めていれば…」


「ラジアルさんのせいじゃないですよ、僕がうっかり喋っちゃったのが悪いんだと思います。とりあえず、ギルドの仕事をもっと手伝わせて下さい!」

 ヴァリクは、前向きだった。


「あ、そうですね!ギルドの仕事に慣れれば、対抗できるぐらいにはなるんじゃないですかギルド長?」

 リルも、ヴァリクの意見には賛成だった。


「…そうだね、ヴァリク君が前向きな性格の子で良かったよ」


 怯えたりキョドキョドしたりはするが、一応これでも前向きなのがヴァリクだ。


「では、今度は救済の依頼を頼みたいんだけど、いいかなヴァリク君?」

「救済…ですか?」

「このギルドのもう一つの仕事だよ。壊された施設や、食料の足りない人に物資を調達してきて街を元通りにする手伝いをするんだ」

「両方慣れておくってのは、私もいい事だと思いますよ~!じゃあ早速紹介しましょうか!受付へどうぞ!」


こうして、次は救済の仕事をする事になったヴァリクだった。

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救済都市エテス・タス ~二人の神~ @tubamitu

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