第14話 合格2

 景色が急に切り替わる。現実世界に戻ってきたらしい。いつもの面接の練習をする部屋だ。

 だが、教室の日時も表示されるタイプの壁掛け時計を見ると、前から一週間近くも時間がたっている。でもその間起こったことは、記憶として頭に残っていた。授業内容も、教室での会話も、記憶にある。

 この日付は、推薦入試の枠を決定する最後の面接練習の日だ。

 既に面接は始まっていて、飯島先生と僕は対面して座っている。

 だが、自分でも拍子抜けするくらいリラックスしていた。

 安定した生活のための大事な一戦なのに、大したことのないものに思えて仕方がない。

 アプフェルを取り返すための戦いに比べると。

 飯島先生の目にも緊張感はあっても殺気がないから、楽だ。

 アプフェルとの会話を思い出せ。型どおりの言葉は駄目だ。

 自分の言葉で語れ。魂を乗せろ。なぜこの学校を選択した?

 本音はいい学校に推薦で楽して入れるからだ。それをそのまま喋らずに、この場に合わせて変える。

 さらに飯島先生の目を見ろ。何を話してもらいたがっている? 飯島先生の求める答えはなんだ?

 いつもと様子が違う僕に気圧されたのか、飯島先生の腰が少し引けている。

 僕はゆっくりと深呼吸して、考えをまとめた。

「―――」

 ここまで自分が努力してきたこと。

 趣味も部活も削って勉強に充てて、必死に自分を磨いたこと。

 それらすべてをぶつけるつもりで、言の葉を紡いでいく。

 アプフェルとのやりとり、誘拐犯とのバトル、それも思い出しながら気分を高揚させていく。

 僕が全てを語り終わった後、飯島先生は呟いた。

「面接が、上手くなったな」

 飯島先生が僕にかける、初めての言葉だった。

「今までお前は、小器用さがあっても熱意がなかった。だが今は危機迫るような熱意を感じる。これならば推薦入試も合格できるだろう」

 翌日、僕が推薦枠に決まったと飯島先生から知らせがあった。

 もう一人はなんだか問題を起こしたとかで、枠から外されたらしい。

 後で聞いた話によると、女子に対する恐喝、だとか。

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「凡才の僕は現代でも異世界でも安定した生活を希望します」 @kirikiri1941

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