第13話 カフェ―
カフェーで三人でお茶を飲みながら、話をすることにした。アプフェルは後で事情聴取をされるそうだが、今は落ち着くのが先ということで開放してもらった。
アプフェルは恐怖で震えているかと思ったが、意外なほど落ち着いていた。
僕はとりあえず、彼女に頭を下げる。
「ごめん」
「なぜ、旦那様が謝るのです?」
「すぐに助けられなかった。それに一度、僕は君を見捨てようとした」
「そうですよー! エンジョウジ様がアプフェル様を見つけた直後に警備兵に任せて帰ろうとしたから、私怒りましたよ!」
「いいんですよ。旦那様は、私を助けてくれました。その結果が全てです」
アプフェルは豊かな胸に手を当てて、目を閉じた。僕が助けた時のことを、ゆっくりと噛みしめるかのように。
「それより、エンジョウジ様はなんで黙って立ち去ったんですか? 警備兵から表彰くらいされるかもしれないのに」
やっぱり、そうきたか。
「そのことなんだけど」
僕は円形のテーブルから身を乗り出し、声をひそめた。
「このことは黙っててもらえるかな?」
「何でですか? エンジョウジ様、すごく格好良かったですよ!」
「旦那さまには正当な評価を受けていただきたいです。夫の名誉は妻の喜び、です」
テルマは少し顔を赤くしたまま、アプフェルは口をとがらせて反対した。
でも、僕にだって理由があるのだ。
「だって、騒がれるのは好きじゃないし」
安定した生活のためには何事もないのが一番だ。
「わかりました。旦那様がそうおっしゃるのなら」
アプフェルは意外なほどあっさりと矛を収めた。
「でも、一つだけお聞かせ下さい。なぜ助けて下さったのです? テルマが言うとおり、警備兵に任せるのが安全だったでしょう」
そうきたか。
「それは、やっぱり許嫁だから」
一応照れながら言ってみたんだけど、アプフェルの反応は芳しくない。言ってもらいたかった台詞じゃない感じだ。テルマもあちゃー、と言いたげに頭に手を当てている。
ふと、日本での面接のことを思い出した。
あの時も飯島先生から散々駄目出しされた。型どおりの言葉をそのまま繰り返しているだけだと。
ここは面接の場じゃないし、久しぶりに自分の言葉で語ってみよう。
僕は大きく深呼吸して、考えをまとめた。
「君が僕を好きでいてくれるから、かな」
この言葉が一番しっくりくる。まだ本気で好きじゃないし、許嫁の関係もピンと来ていない。でもアプフェルが僕を好きでいてくれるのはわかる。
さっき僕と目があった時、その思いを一層強く感じた。
女子から好意を向けられたことなんてなかったから、それが純粋に嬉しい。
「だから、僕も君のことを……」
好き、とは言わない。こんなに純粋に僕のことを想ってくれている子に、嘘はつけなかった。
でもそれだけで十分だったようで、テルマは顔を真っ赤にして「恋、これが恋……」と呟いているし、アプフェルは、名前の通りに顔をリンゴのように真っ赤にした。
「旦那様。今まで言っていただいた言葉の中で、一番胸が締め付けられました」
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