第十一話 阿修羅の囁き
「全然、当たらねえじゃねえか……」
木刀を振るい続けた結果、ジジイに当たることは無く、墨は乾いて触れても黒く染まることは無い。
要するに、足も手も出ずに負けた、という事だ。
しかも、体力が尽きてしまい、ジジイの足元でへたり込む形となってしまった。情けない、情けなさすぎて、ジジイと目を合わせる事が出来ない。勿論、アマネと目を合わせることも出来ない。
「まあ。思った以上に最悪だな……てか、ロンドは何で強くなりてえんだ?」
ああ、そうか。言っていなかった。俺がなりたい存在と、俺が今やらなくてはいけないことを。
「学園に入りたいんだ。それも、学費免除になるSランク教室に」
「おいおい、今のままじゃ学園に入ること自体不可能だぜ。試験を受ける事すら許されねえ」
「そうだね、幻獣が無名何て言ったら学園の敷地内に足を踏み入れる事さえも禁じられるよ。ボクも最初は入ることも出来なかったからね」
俺はその言葉を聞いて絶望した。やはり、この幻獣至上主義の世界で俺たち
それに、実力的に試験に合格できないのは重々承知だ。学園の人間は、雑魚はどうせ試験に受からないのだから、学園に入れなくても結果は同じだろ。そう言うんだ。
「まあ、やれることはやるべきだな。ロンド、今ので分かったがお前は力み過ぎている。そして動きが単純で、遅い。それに、筋力と握力、体力が圧倒的に足りていない」
「やっぱりか……」
何度も、木刀を手放しそうになってしまった。汗で手が湿っていたせいでもあるだろうが、完全に握力が足りないせいだった。
それに、この体力の少なさ。数分剣を振るうだけでへばってしまう。今まで素振りをしてきた意味が無いのだが。
まあ、無意味な素振りを千回しても、意味のある素振りを一回分の成長を越せない。そういう事だろう。
「単純に才能とかの問題ではないよな」
「うーん、そうだね……時間があれば才能とか関係なく学園に入学するところまでは出来たかもしれないけど、あと一週間で試験だしね……」
「あと一週間!?」
俺は何日間寝てたんだよ。あと試験まで一週間って言うと、二週間も寝てたことになるんだぞ。いや、あの重症の事を考えるとこれぐらいが妥当なのか? ……流石に寝すぎだろう。
まさか、ここまで試験が迫っているとは思ってもみなかった。
「正直言ってロンドに剣術の才能は無いね……」
「マジか」
「まあ、やるべきことはやろうぜロンド。まだ終わっちゃいねえんだ」
言われなくても分かっている。あの狂刀を握ってしまったんだ。もう、後には引けない。
それに、俺にはザイにもシザにも勝利した実績がある。それが、自分自身の実力じゃなくても、俺はその力を出し惜しみなく使ってでも、試験に受かりたい。
「ロンド、勘違いしない事だよ」
「……何が?」
「君のその力も、狂刀『阿修羅』ももう君の物なんだ。君の力であることに変わりは無い。狂刀『阿修羅』は、持ち主は刀自身の意思で決まるからね。君は持ち主として認められているのさ」
「持ち主として……認められている?」
狂刀『阿修羅』の意思で持ち主を決める。ただの道具が意思を持っているのか。
――狂え
っ!? 何だ。
その声は、俺の頭に直接語り掛けて来る。どこかで聞いたことがある声だ。そうだ、ザイとの戦闘で俺の頭に語り掛けてきた声だ。現在と同じように、狂え、受け入れろ、そう語りかけてきた。その声が何故、今?
……聞こえなくなった。
突然語り掛けて来て、突然その声は途切れた。
しかし、何なんだ。この鼓動の高まりは。何故か、どんどん興奮してきている。
可笑しくなってしまったのか俺は。いや、元々可笑しいのか。無能無能と蔑まれ、たった一人に自分を肯定されただけで、胸を張る。何処に胸を張る要素がある。無能無能と蔑まれて居た頃から何も変わってないじゃないか。今だって言われた……才能が無い、と。そんなこと最初から分かっていた。でも、諦めたくなかったから。というか、何故俺は諦めたく――
「――どうしたんだい? ロンド」
「っ! ……いや、何でも無い」
自分は何をしているのだろうか。俺のためにアマネたちが力を貸してくれると言っているのに、こんな無様では目を見て話すことすら出来ない。
集中力が削がれて、足取りも重い。
「それじゃあ、今日は一旦止めにするか。この様子じゃ訓練したって意味が無さそうだしな」
その言葉に、返答を返す気力もなくなってきている。お前はやる気が無いのか? そうキッパリと言ってくれた方が、いっそ楽なのかもしれない。
その小さな心遣いが、俺の心を傷付ける。
狂瀾怒濤の無名剣士《イレギュラー》 不知火洋輔 @TORAIJIN
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