第31話 遣わす者

 一艘だけ残った船は、他のガレオン船とはかけ離れた装いをしており、全体が赤黒くくすんだ様な色をしている。よく見るとその船体は、脈打つ血管のようなもので覆われていて、無理やりガレオン船に似せているだけの金属生命体のようにも見える。


「エネルギーシールドを展開している!? なんだあれは……」


 味方であろう高機動ステレス型戦艦が、搭載しているビーム兵器で攻撃をしているようだが、そのシールドによって黒船に到達する前に打ち消されている。


「ありゃ流離う者ヴァガボンドだ! 船型もあるとは恐れいったぜぇ!」


 アキヒトがそう叫んだ瞬間、脳裏に閃光が走り船首に立つ人影からただならぬ気配を察知した。


次元波動防御壁セレスティアフィールド!!」


 黒船からこちらに向かって放たれた紫色のエネルギー弾が、俺の展開したシールドによって弾け飛ぶ。


「きゃあ!」


 一緒に居たプルティアが驚いて尻餅をついた。

 少しでも遅かったら、危うく直撃していたところだ。


「くっそ! なんだあれは! 高出力集光砲スペクトルレーザー!!」


 お返しにと、すかさずレーザーを放つがやはり敵のシールドによって打ち消される。


「サトシぃ! ありゃ流離う者ヴァガボンドだ! 魔法は吸収されちまう! 遣わす者まで居るじゃねぇか! こりゃ少し分が悪いかぁ!?」


 魔法が吸収されるだと!? 


「おっさん! 少し時間を稼げるか!? 魔力ではない攻撃をしてみる!」


 俺がそう言った瞬間、アキヒトは電光石火の如く船まで飛びこみ、プラズマ化した手刀でそのシールドを切り裂く。

 一瞬電磁パルスが爆発したような高エネルギーによる激しい衝突が起き、周りの空気が激しく震える。

 

 その間に俺は軌道衛星兵器サテライトウェポンを作り出し上空に太陽エネルギーを集める。


 アキヒトは黒船のシールドを破り、船首に居た黒いローブの人影に切り込んでいるが、思うようにダメージを与えられない。それと言うのも、その人影は三つあり、それぞれが紫色のエネルギーソードを持ってアキヒトを迎え撃っている。


「アキヒトさん凄いです! 三人を相手に立ち回っています!」


 プルティアはそう言うが、あれは辛うじて攻撃をいなしているだけのようにも見える。流石の守人も、三人からの攻撃を避けるだけで精一杯のようだ。


「アキヒト。限界。三人無理」


 どこに居たのかアールが俺の足元でそうつぶやく。


「あぁ、もう少し待ってくれ。アール。俺が合図をしたらおっさんだけこちらに転移させてくれ」


 そういう間にも、アキヒトはどんどん押され、甲板の上を逃げ回るように動いている。


「ジルベスター様! 我々はどうしたら!?」

「カイン、我らの手の出せる戦いではない! それより良く見ておくのじゃ。あれが人ならざる者同士の戦いじゃ!」


 波止場では爺さんが急いで皆を避難させている。

 アキヒトと遣わす者たちの戦闘は、その一つ一つの攻防だけで物凄いエネルギーの衝突が起こり、こちらに伝わる衝撃波だけで尋常じゃない戦いなのが分かった。


「よし! いいだろう! アール!」


 上空に十分な量の太陽エネルギーが集まり、戦略兵器を撃ち降ろす準備が整う。


「%$#&@*+◇※▲」


 アールが意味不明な言葉を発し、船上のアキヒトが水色の粒子で包まれる。


太陽光超集束波ブレイジングノヴァ!!!」


 俺は出来る限りの力を注ぎ放つ。

 一瞬、時が止まったように大気が静まり、轟音と共に極大の火柱が舞い降りる。

 遥か天空より撃ち降ろされたそれは、今だかつて無い規模の破壊力を誇り、海を割って半径100メートルほどの地形が剥き出しになった。

 火柱が撃ちこまれた入り江の海水は一瞬で蒸発し、周りの海水がそれを元の姿に戻そうと、剥き出しになった海底へ滝のように流れ込む。


「ふぉ!? か、神の光じゃ……」

「あ、が? こ、これは……師匠?」


 その場に居た誰もが立ち竦む。

 黒船は消し飛び、残った海原は静かに蒸気を立ち昇らせているだけであった。


「まじかぁ。サトシぃ……おめぇなにもんだぁ?」


 俺の隣に転移してきたアキヒトが呆れた様に呟いた。


「まだだ! 上にまだ居る!」


 俺の周辺探索装置アラウンドサーチシステムに一体だけ反応が出ている。


「なにぃ!? あれだけの攻撃を耐え抜いただとぉ!?」


 上空を見上げると半身がどろどろに溶けたローブの男が浮かんでいた。


「ギ・ギ・ギ・ギ!」


 そいつは右肩から斜めに袈裟切りのように下半分が溶けて無くなっており、船と同じように黒い金属の様な体に赤い血管が剥き出しになっている。

 すると、そのローブの男の後方上空から突然大きな反応が現れた。


「グギャーーース!」


 大きな咆哮と共に、巨大な翼竜が羽ばたいてくる。それは100メートルを超える巨大なモンスターで、太古の昔に絶滅した恐竜のプテラノドンのような姿をしていた。


「な!? あれは!?」


 俺が身構えるとアキヒトがそれを制止する。


「ヒヨウリュウだ! ありゃ闇の深淵の化け物だ!」


 ヒヨウリュウと言うそのモンスターは、上空から現れたかと思えば、黒いローブの男に向かって急降下していき、巨大な口でその男を咥えた。


「お、おい!? なんだ!?」


 俺が慌てるとアキヒトが首を振る。


「どうやら闇に生きるモノもこの戦いを見ているみてぇだ。流離う者ヴァガボンドを遣わす者は闇に生きるモノにとって天敵だ。何のためかは知らねぇが、弱ったところを見計らってヒヨウリュウを使って攫おうとしてるんだろう」


 アキヒトが言うには闇に生きるモノは完全な人間の敵ではないらしい。俺も魔力が尽きて追撃する力もなかったせいもあり、その上空のやり取りをただ傍観しているだけしかできなかった。


「グ・ギギ! #&@*+◇※!」


 ローブの男は苦しそうな表情で最後に何か言葉を発した。


「サトシ! あぶなーい!」


 いつのまにか近くまで来ていたシルチーが叫ぶ。


「え!?」


 俺の体の回りに水色の粒子が浮かび上がる。


「くそぉ! 転移かぁ? あのやろう最後に――」


 アキヒトが何かを叫んでいるようだが、すでに何も聞こえない。

 目の前の景色がボヤっと揺らいだかと思うと俺の意識はゆっくりと無くなっていった。


 

 闇の深淵――

 

「ディザスターの生体は回収できたか!?」

「あぁ、ヒヨウリュウを使ってなんとか一体だけ回収したが、ここに届いたときにはもう事切れていた」

「死んだと? 動かなくなっただけでは?」


 深い洞窟の奥底にある巨大な研究室は普段とは違う慌しさに包まれていた。

 異形の姿をしているその研究員たちは、つい先ほど届いた天敵の遺体に興奮し、繋ぎ合わされた体の隙間から体液が飛び散るのも気にせず研究室へと走る。


「それでもいい。貴重な資料だ! 流離う者ヴァガボンドではなくディザスターの本体なんだろう?」

「あぁ、そうだと推測される。しかし、黒船ごとあいつらを消滅させたあの人間は何者なのだ!?」

「あれは以前、人型の流離う者ヴァガボンドとか言っておっただろう。違ったではないか!」


 明るい照明が規則正しく並んだ無機質な廊下を進んで研究室の一つのドアを開ける。


「あれは人間だ。しかし普通の人間ではない! もしかすると始祖の民と関係があるかもしれぬ」

「それはあのアニマの守人と一緒に居たからか?」

「始祖の民と言えばアニマの女神がそうだろう。全くの無関係ではないはずだ」


 その大きな研究室の中央には培養液に満たされた水槽があり、そこには半身が失われた遣わす者の姿が浮かんでいた。


「これか……。なんとも言いがたい不可思議な姿よのう」

「我らのようなサイボーグとはまた違ったモノのようだ」

「金属の外殻を覆った血管のようなものは何だ?」


 水槽の中に浮かんでいるそれは、人型のロボットに生身の生命体が宿ったような姿をしており、無機質と有機質が融合したような謎の生命体であった。


「丁度今から一万年前か。大いなる光によって世界が再生されてから突如現れた謎の生命体……」

「その以前から存在していたかもしれんがな。まぁ侵略してきたのはその頃だったような」

「巨大ロボット、いや流離う者ヴァガボンドと呼ばれているか。それを送り込んでくるようになったのがその頃だろう」


 闇に生きるモノたちは、一般的には太古の昔に魔力に順応できなかった人間の末裔と呼ばれているが、実際は末裔ではなくその人間そのものであった。

 大いなる光で発生した魔力によって変異してしまった人間が、魔力の影響力の少ない地底に逃げ込み、その高い技術力をもって自分のクローンを造り、長い年月の中で記憶と体を繋ぎ合わせて生き抜いていたのだ。

 しかし、あまりにも長い年月を繰り返してきたことによって、その受け継いできた記憶も曖昧になり、最適化されていたはずだったクローンの移植もどこかで綻びが出て生き残る者も少なくなっていた。


 当初の目的であった地上の魔力の最適化と、それと同時に襲来してきた謎の生命体ディザスターとの戦い。今では彼らの意識はこの二つだけに向けられることとなっていたが、そんな彼らの知識をもってしてもこのディザスターの正体は未だ分からぬままであった。


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オーバーテクノロジー ~近未来から転移したS級戦闘兵がハイテク魔法で異世界無双~ ピクミンの子 @pikuminnoko

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