第30話 亜人軍上陸
俺はセルシオン達の事情を聞き、ただならぬ危機感を感じていた。
「サトシさん、レムリア大陸では何が起こっているのでしょう……」
プルティアも俺と同じく得体の知れない危険な存在を感じ取ったようで、不安そうな表情でこちらを見る。
「あぁ、分からないが何か良からぬ事が起こっているのは間違いない……」
俺はそろそろ難しい話に飽きてきた頃かなと思いシルチーをチラッと見ると、予想に反してあまり見たことがない険しい表情になっていた。
いつもはオレンジ色の目をしているが、怒っているのか黄色の魔力が溢れんばかりにメラメラと揺らいでいて、元である赤い瞳の色は少しも見当たらない。
「じゃぁぁすっ! てぃぃぃっす!」
シルチーは突然座っていた椅子によじ登ったかと思えば。何やらポーズを決めてそう叫んだ。
「おうふ! シルチーちゃん! そ、それはあの伝説の英雄メガリスタ様の決め台詞でござるな! ンコポォ!」
隣に居たセルシオンがその従者であった魔道師カンパリルネの真似をして同じようにポーズを決める。
これは以前レトロスの街の劇場で見た『英雄メガリスタの大冒険』という演目のワンシーンだ。
英雄メガリスタが闇の深淵に挑んで帰還したという伝承を再現した話であったが、正義モノが大好きなシルチーはそれを観てからと言うもの、ことあるごとにこの決め台詞を口にする。
「わたしはぁぁ! 正義の味方としてぇ! このレムリア大陸の災難から人々を救いたいとおもぉぉう!」
また劇中の英雄メガリスタの台詞と似たような口調で宣言している。
「はぁ~。意気込むのは良いがリーダーさんよぉ。そんな大群相手に俺達は何ができるっていうんだ? 亜人を全部ぶっ殺してセルシオンの父親を改心させて人々を解放させるとでも言うのか? そんなの国を挙げて挑まないと到底無理な話だぞ?」
俺は幼い子をなだめる様に静かに諭そうとした。
「それはぁ! わが家臣である魔道師サトシリルネが全部ぶっ倒せばいいのだぁ!」
「サトシリルネって何だよ! だからそれは無茶だっつーの!」
夢見がちで頑固者のリーダーはこうなると少しタチが悪い。
「だってぇ! みんな無理やり魔力を吸い取られて苦しんでるんだよ? かわいそうじゃん! 助けてあげないと!」
シルチーはまた椅子に座り直して今度はテーブルをバンバン叩く。
「まぁそりゃそうなんだがな。そう言っても俺達に爺さんとカインを合わせても戦力として少なすぎんだろ。ロマンシアが全面協力をして参戦するってならまだしもそういう話にはまだなってないんだろ?」
俺はそう言ってセルシオン達をゆっくり見回したが皆の表情は明るくない。
「そうじゃな。こちらの状況はアルベルト卿を通してロマンシア国王にも伝わっているのじゃが、いかんせん海を渡った隣の大陸での出来事じゃ。侵攻されなければこちらから攻め込むということは無いと国王は考えられているようじゃ」
まぁそうなるよな。わざわざ海を渡って亜人の軍隊に攻め込むのはそうじゃなくても避けたいはずだ。
「し、しかし、私はシルチーナ殿の意見に賛成です! 師匠の力があれば亜人全部と言わなくとも、敵の首魁である謎の魔道師達を撃破してくれると信じております!」
さっきまでシルチーのことをクソガキと連呼して追いかけていたカインだったが、英雄メガリスタの口調を真似たシルチーの熱い想いを聞いて心を打たれたようで、いつのまにか正義の味方の仲間に入っている。
「というか謎の魔道師達ってなんだ!? 聞いてないぞ!?」
「それはベルキニア公国に突如現れ、色々な知識や見たこともない兵器を用いてベルキニア公に取り入っていった奴らのことです! ベルキニア公がおかしくなっていったのもそいつらが来てからだと思います。噂では亜人軍団もそいつらが指揮し連れて来たものと聞いています」
「分かりやすい構図だな! そんなの確実にそいつらが悪の親玉じゃないか! セルシオンの父親は騙されているというより洗脳されたんだろ」
そいつらの目的は分からないが、人間達の国政が絡んだ複雑な陰謀とかいうわけではなさそうでかえってやりやすい。
「ということは、その謎の魔道師達を倒せば、混乱も治まるということでしょうか?」
プルティアも同じことを考えたようだ。
「敵の首魁の暗殺か……まぁ出来なくはないな」
少数のターゲットを抹殺することはむしろ俺の得意分野でもある。
「ほ、本当ですか!? 流石師匠です!」
「いや、可能性がないわけじゃないと言うだけで、それにしてもまだ情報が少なすぎる。敵の正確な人数や潜伏場所、それに肝心の能力についても分からないんだろ? 逆に操られたりしたらそれこそ今より状況が悪くなっちゃうだろ」
「そ、そうですね。確かにその通りです」
作戦の遂行は事前の情報量によって成功率が決まるといっても過言ではない。
戦う前に勝負が決まっているというのは、妄言ではなく戦闘の本質でもある。
「亜人軍チャイオ襲撃。未確認反応三アリ」
「うお! アール!? どこから沸いてきた!?」
いつのまにかアールが同じテーブルでお菓子をつまんでいる。
「チャイオ襲撃。サトシ我一緒来イ」
「え!? チャイオ? なんだ? 何言ってんだ!?」
突然現れた生物に一同は驚き目を丸くしている。
「チ、チャイオというのはここから東に行った港町チャイオのことだと思います! 確かレムリア大陸との貿易が盛んで発展した町だったと思います」
プルティアはそう言いながらアールを抱きかかえて撫で回している。
「ア、アールというと!? さきほど聞いたアニマの守人の!? どういうことじゃ!?」
「チャイオ襲撃。我転移、サトシ連レテ来ル。アキヒト言ウ――」
アールに詳しく話を聞くと、どうやら港町チャイオというところに亜人軍団が船で攻めてきたらしい。なんでそこにアキヒト達がいるのか良く分からないが、敵が大人数なため救援を要請しているみたいだ。
「これは天命であるぅ! サトシ! プルティア! 行こう! 悪を滅ぼす風となれぇ!」
すっかり乗り気なシルチーはまるで伝説の英雄になったかのような台詞で立ち上がった。
「こりゃ大事じゃ! わしとカインも連れていってくれ! 坊ちゃんはアルベルト卿に急いで報告じゃ!」
「わ、分かったでござる! 拙者もアルベルト卿と共に後から出征するなり!」
のんびりとしたお茶会から一変し、俺達はその港町チャイオというところに出陣することになった。
「しかし、ここからチャイオまでは急いでも二日はかかる。どうやって行くのじゃ?」
「アール? さっき転移とか言ってたけど、集団転移なんて出来るのか?」
俺は疑問に思ってアールに聞く。
「ノープロブレム」
アールはそう言うと俺達に手を繋いで固まるように指示をした。
暫くすると周辺から水色の光の粒子が出てきて体を包み、それが上空に吸い込まれるように立ち昇ったかと思うと、同時に目の前の景色がボヤと揺れて見えなくなった。
「%$#&@*+◇※▲」
アールが意味不明な言葉を発し、気付いたときには港町が展望できる丘の上に立っていた。
「こ、これは凄い! 転移魔法が使えるとは! 流石守人様じゃ!」
爺さんとカインはその光景に驚き喜んでいる。
「おい! あれを見ろ! 凄い数の船だ! ……ん? なんだありゃ?」
港の入り江には100艘を超えるかのような船が乱立してこちらに向かってきており、少し離れたところに高機動ステルス型戦艦まで見える。
「なんで高機動ステルス型戦艦がこんなところに!? あ、敵を沈没させた……魚雷か? てことは味方なのかあれは?」
元の世界にもあった特殊合金で作られたような戦艦が孤軍奮闘している。
しかしあまりにも敵の数が多くて何艘かの船はすでに上陸しており、波止場では激しい戦闘が繰り広げられていた。
「サトシ! 指示を!」
シルチーが俺の裾をグイグイ引っ張る。
「あ、あぁ! シルチーとカインは上陸している敵の対処を! プルティアは俺の援護! 爺さんは泳いで上がろうとしている敵を! 俺はこれから来る船を破壊する!」
俺は素早く状況を把握し皆に指示を出す。
「
「
プルティアと爺さんが全員に防御魔法を掛けた。
シルチーは、カインと一緒に俺から借りパクしている
「ホォッホォ! こりゃあ腕がなるわい!」
爺さんもその後ろに続いて港付近まで行き、少し距離を開けたところから雷のような魔法を水中にいるゴブリンやオークと言った魔物にぶち込んでいる。
ふとシルチー達が参戦した波止場を見ると、一際大きな魔物が皆の攻撃をものともせず猛威を振るっていた。
「あれは……? カインが苦戦しているな」
その大きな体の人型の魔物は強靭な肉体でカインの攻撃を弾いているようにも見える。
「あれはトロールです! 体は鋼より固くその力は想像を絶するほどと言われています! あのような魔物まで――」
プルティアがそう言った瞬間、そのトロールの頭が弾け飛んだ。
「なっ!? トロールが!?」
「アキヒトのおっさんか! なんだあの腕は!? プラズマ化しているのか!?」
そのトロールの頭を消滅させたのはアキヒトの手刀であった。その手は付け根から青く電気を帯びたように光っており、稲妻のように敵を切り裂いていく。
その圧倒的な強さは上陸してくる敵を次から次へと葬り去っていた。
「あそこは大丈夫そうだな。そろそろいいか」
俺は右手に溜めていた魔力が十分な量に達したことを確認した。
「プルティア! すぐ補充を!
右手から発せられたレーザーを維持して、左手で支えながらそれを水平になぎ払う。
高温のレーザーが水中に達したことにより水蒸気爆発を起こし、手前側まで接近していた30艘くらいの船と合わせて辺り一面を一気に吹き飛ばした。
すかさずプルティアが魔力の補充をしてくれてまた魔力を溜める。
「うぉぉぉい! なんだありゃあ! あいつ本当に人間かぁ!?」
波止場の方でアキヒト達が目丸くして驚いている。
しかし、まだ船は沢山残っており、どんどん魔物が上陸してくる。
「きりが無いな。一気にいくか……プルティア!」
「
両手を輪っかにし、入り江の船を全部収める。
「
味方の戦艦に当たらないようターゲットをしっかりとロックする。
全部を完全に破壊するにはもう少し魔力が必要だな――。
「
プルティアは俺の考えが分かるのかすぐに魔法を唱えてくれた。
「よし。これで整った!」
キィィィィィィン。
圧縮した魔力が周りの大気をびりびりと振るわせる。
「
物凄い数の光弾が敵の船に向かって次々と飛んでいく。
一艘あたり100発を超えるその光弾の雨は、まるで花火が降り注いでいるかの様な、ある意味優雅さまで感じさせる光景だった。
着弾した船は一瞬で爆散し、ことごとく海の藻屑となって沈んでいった。
「す、凄いですね……! 綺麗とさえ思ってしまいました」
波止場で戦闘をしていた敵も味方もあまりの光景に暫く立ちすくんでいたくらいだ。
「やったぁぁぁ! 魔道師サトシリルネの大魔法が炸裂したぁぁ! っせぇぇい!」
シルチーが姿を現して、最後に残っていたゴブリンの首を跳ね飛ばす。
「いんや! まだだぁ! まだ船が一艘残ってやがるぜぇ!」
アキヒトがそう言った先には、バリアのようなもので覆われ邪悪な艤装が施された黒い船が浮かんでいた。
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