――世界を救うために必要な時間は、たったの三分です。
ちょっと間の抜けたヒロインから、そんな難題を告げられるところからスタートする本作。
三分というとカップラーメンが出来上がるのと同じくらいの時間ですから、普通に考えたら無理に決まっています。
とはいえそのタイムリミットは『異世界に滞在しているとき』しかカウントされないため、主人公は時間を自由に使える現実世界と、スピーディに行動しなくてはならない異世界を行き来しながら、どうにか難題を達成していきます。
その展開はさながらゲームのタイムアタックめいていて、適度に緊張感があり、なおかつ効率よく冒険が進むので、お話のテンポがとてもいいです。
さらに『日帰りファンタジー』らしく現実世界のアイテムを巧みに使って対処していくので現代知識チート的なエッセンスもありつつ、後半にはあっと驚く展開まで用意されており、物語として隙がありません。
時間制限というシンプルな設定だけで、よくぞここまで魅力的な物語を描くものだと驚嘆するばかりですが……実のところ作者の既読先生はキックボクシング界ではかなり名の知れた人物でして、試合のたびに三分(1ラウンド)という限られた時間の中で死闘を繰り広げている方なのです。
つまり『タイムリミット』という発想はそういう生活の中からにじみ出たもので、だからこそ有無を言わせぬ臨場感を出せるのでしょう。
この作品を読みはじめたら最後、既読先生の極限まで鍛え抜かれた肉体から繰り出されるタイキックのごとく、気がついたらノックアウトされてしまいます。
とくに『日帰りファンタジーコンテスト』に応募している方は気をつけましょう。心が粉砕されてしまうかもしれません……。