第2話:復讐の狼煙
「おーい……起きろ」
ゴメイサは椅子に縛られている黒人の男性に声をかける。
黒人の男性は聞こえていないのか眠り続けている。
「起きろ。それがお前のためだ」
ゴメイサは軽く頬を叩いたり、声を大きくして黒人の男に話しかける。
嗅がされた薬が強いのか、この黒人の男自身寝付きが良いのか目を覚ます様子はない。
「これで目覚めないのか……仕方ない。俺は忠告したからな」
ゴメイサはため息をつきながら胸のホルスターに入れた拳銃を取り出すと銃口にペットボトルを装着して黒人の男性の足の甲を撃つ。
銃声は聞こえず、引き金を引いたカチっという音だけが車庫に響く。
「ふがっ!! ふがっ!! ふごぉぉぉぉおおおおお!! ううううううううううううううう!!!!」
黒人の男性はは凄まじい苦痛に叫び声をあげて飛び起きた。もっとも、飛んだのは意識だけで体は椅子に雁字搦めに拘束されている。喉からほとばしる絶叫も猿轡に阻まれ、大して響かない。
黒人の男は痛みの原因を視線で探る。靴に穴が空き、赤く染まり、小さな血の水たまりができている。
黒人の男はここで自分の状況がわかったのか痛みと恐怖に悲鳴をあげようとするが、猿轡のせいでくぐもった声しか出ない。
「やぁ! おはよう! よく眠れたかい? 君は本当にねぼすけだな」
ゴメイサは笑顔でまるで寝過ごした同僚を起こしに来たような口調で黒人の男に声をかける。
黒人の男はゴメイサと認識はないのか、逃げる仕草をするがきつく縛られているのかほとんど身動きができない。
「おっと、酷い怪我だ。今、止血してあげよう。なに……礼なら要らない」
ゴメイサは慣れた手つきで黒人の男性の足の甲の穴に、止血剤をふりかけ応急処置が施す。
まるで、何度もやったことをもう一度、一からなぞるように、無駄というものが一切廃された所作であった。
黒人の男性視点から見れば、このゴメイサは明らかに拷問を楽しんでいた。
「さて……これから君の猿轡を外す。なので予め忠告するが、質問されたこと以外を喋ったら次は左の足の甲に穴が開く。変なことを言っているように聞こえるかもしれないが、私は至って健康であり、正気だ」
「すまん! 誰かわからんが、が悪かった! 頼む! 許してくれぇ! お願いだああああ!!!」
猿轡を外された途端、黒人の男の口からは叫ぶように謝罪の言葉があふれた。
ゴメイサは片耳を手で塞ぎながらため息を付いて、黒人の男性の左足の甲を撃つ。
「うぎゃああああ!! あやっ……謝った……じゃないか……」
「俺は言ったよな? 質問されたこと以外喋るなと……なあ、ブローグ血液センター事務員のブラウンさん?」
ブラウンと呼ばれた黒人の男性は涙と鼻水を撒き散らしながら壊れた人形のように何度も首を縦に振る。撃たれた足の激痛に時折うめき声を噛み殺しながらも漏らす。
「ブラウンさん、貴方は血液センターに集められた血液の遺伝子情報を売って小遣いを稼いでいるな?」
「あ……ああ」
ゴメイサは近くの廃材に腰掛けて質問する。ブラウンは肯定するように何度も頷く。
「キャシー・ライバックとジェニファー・ライバックを知っているか?」
ゴメイサは懐から1枚の写真を取り出す。写真は折りたたんだせいでシワやスジが入っているが人物の顔を認識するには問題ない。
写真は家族の集合写真だった。椅子にゴメイサによく似た男性が座り、男性の膝に10歳前後の少女、男性の後ろから抱きつく女性の写真だった。
ブラウンは写真を凝視し、面識がないか必死に思い出そうとする。
「しっ……知らない……」
「だろうな。あんたのとこに届いたのは二人が献血した血だけだもんな」
ブラウンはどうしても思い出せず、ゴメイサの顔色を伺いながら知らないと伝える。ゴメイサは気分を害した様子もなく、うんうんと頷きながら新しいロリポップをポケットから取り出して口に咥える。
そしてゴメイサはボリショイ・ヤポンスキーから渡されたブラウンの携帯をロリポップを舐めながら弄る。
「俺の妻と娘の情報……誰に売った?」
「わっ……わからないっ! 仮に知っていても答えたら殺される!!」
ゴメイサの目が座り怒りと憎しみに満ちた表情で質問する。ガリっとゴメイサが咥えていたロリポップのキャンディーが噛み砕かれた音がブラウンの耳に聞こえた。
ブラウンは脂汗を浮かべながらもゴメイサの質問にあやふやな回答しか返さない。ゴメイサはブラウンの携帯をじっと見つめる。
「なるほど……ブルーム・ギャングス、レッドブロンズ、イエローフラッグ……ギャング経由で情報を売っていたのか。そこから臓器密売組織に流れたってとこか?」
「なっ!? はっ……ハッキングでもしたのか?」
ゴメイサは何をやったのか、いつの間にかブラウンの携帯ロックを解除し、通話記録や連絡アプリの履歴を辿り、情報取引をしていた商売相手を割り出す。
「ちっ……個別じゃなくて一括ファイルで情報を売っていたのか……それぞれのギャングに聞き出さないといけないな」
「やめてくれ! 俺から情報が漏れたとわかったら殺される!!」
ブラウンの携帯に残されていた情報から血液センターに届いた血液の遺伝子情報は個別に売られたのではなく、ファイルごと一纏めで売られていた。
どのファイルにゴメイサの妻子の情報が紛れているかはわからず、舌打ちする。
ゴメイサの次の行動を聞いてブラウンは動揺する。ゴメイサは狂気に満ちた笑みを浮かべてブラウンの背後に回ると、お互いの頬が触れるほどの距離に近づく。
「ここで死なないと思っているのか? なあ……お前が、お前が情報を売ったせいで……俺の妻と娘はっ! 内蔵を抜き取られてゴミクズのようにダストボックスに廃棄されたんだぞ!!」
「ぎゃあああ! おっ俺は悪くねえっ! 俺はただ情報を売っただけで……それをどうこうしたのは情報を買ったやつだ!!」
ゴメイサはブラウンの髪を引きちぎるほどの強さで引っ張り、視線を強制的に合わさせる。ブラウンは悲鳴を上げながら自分は悪くないと泣き叫ぶ。
「だが、お前が売らなければ……俺の妻と娘は誘拐されることも、内臓を抜き取られることも、あんな無残な姿で……殺されることもなかったんだぞ!!!」
ゴメイサは涙を流し、悲痛な叫びを上げ、ブラウンをなぎ倒す。
ゴメイサは肩で息をしながら、自分の車に戻るとポリタンクを取り出す。
「おっ……おい、まさか……殺すのか? なっ……なんでもする! だから命だけぶっ!?」
ブラウンは命乞いするが、ゴメイサは無言でポリタンクの中身の液体をブラウンに浴びせる。
「んぶっ!? ごぼっ……ごええ……こっこの匂いは……ガソリン?」
「もう聞くことはなくなった。後は好きに祈ってろ」
「おい、頼むよ……助けてくれ! 協力する! 何でもする! 死にたくない!!」
ゴメイサは車庫内周囲にもガソリンを撒き散らしていく。ブラウンは必死に命乞いするが、ゴメイサはそこに誰もいないような仕草で最後の一滴までガソリンを撒く。
ゴメイサはガソリンを撒き終えると車庫を密閉するようにドアとシャッターを閉じる。自分の車に乗るとそのままブラウンを放置して一度も振り返ること無く発進した。
「狼煙をあげよう。復讐の狼煙だ……そして神への決別の証だ」
自身の携帯を取り出し、操作する。それが起爆スイッチだったのか、車庫が爆発し炎上する。
黒い煙を上げ、炎が舞い上がる。炎は夜の廃墟を照らた。その炎はゴメイサの怒りと復讐の炎でもあった。
レバレッジ パクリ田盗作 @syuri8
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