驚いた。めちゃくちゃ面白い。1960年代という時代を背景に、ビートルズ来日、三億円強奪事件という二つの出来事を軸として、疾走するように物語は展開されていく。
物語、登場人物たち、出来事、すべてにギリギリを走る緊張感があり、しかし同時にアイロニカルな笑いもある。意図的に時系列はシャッフルされていて、後になって「あぁ、これがこう繋がるのか」という驚きがある。構成の巧みさに唸らされる。ただ一方で、それらがこの物語の「クセ」でもあり、人によっては全く合わないかもしれない。特に社会性のあるアイロニーは人によっては拒絶反応を示す可能性もある。しかし、その「クセ」こそがこの物語の肝であり、文字通りクセになる面白さを持っているのだ。
登場人物のギリギリさに、逆に、キャラクターに対する作者の愛を感じる。この物語がどのように落着し、それぞれの登場人物たちにどのような決着が待っているのか……固唾をのんで見守っていきたい。
1960年、ビートルズは来日し、学生運動は隆盛を極め、人々の時流へと抗う熱がそのまま行動へと点火し、転化されていた頃のお話です。
この物語の登場人物もその例に漏れず、片腕を失ったハスラーやワケアリの女子大生、ギャングにヤクザに果てはエスパーまで、あらゆる人間があらゆる崖っぷちのなかを走り抜けています。
彼らが織り成す疾走感は読者に迫りかけて、「お前はどうなんだ、今お前は命を懸けて走っているのか」と訴えかけてくるようです。
所々入るブラックジョークも小気味良く、作者さんの筆力を窺わせます。
エネルギッシュで、奇想天外で、ユーモラスで、それでいてどこか懐かしく。極上のエンタメを読みたい方には、この一本をお奨めします。