第18話 大手通信会社社員、まずは試作機を作る
「無いね……」
「な~~い」
電話開発のために『魔法電線』的な素材を探し回った。
冒険者ギルド、色々な雑貨店、久々に管理局のタナカさん、一応ドルゴさん(めちゃ怒られた)。
色々聞き込みをしたものの、魔力を都合よく流す素材は売っていなかった。
『絶魔縁紙』なんて便利な素材があったので『魔法電線』もあると思ったんだけどなあ。
『絶魔縁紙』はそもそも防具として利用されていた素材を、一般利用向けに使うようになったんだってさ。
アンチマジックウィドーって言う蜘蛛型モンスターの糸は、耐魔性能がずば抜けて高い。
その糸を紙状にすることで『絶魔縁紙』が作られた。
じゃあ、『絶魔』の逆、『親魔』素材は無いのかというとあるにはあるそうだ。
ソロモンシティ有数の武器屋の主、ダルダーンさんは語る。
「魔力が伝わるっていったら、あれだろ、魔法剣だぁ~ろう。
魔力を籠めたら、刀身が炎を帯びたり、雷を帯びたりする剣ってのはたまに出回るからな。
作れないかだと? ばっきゃろう! そんなもんはドロップ品だ」
「ちなみに……おいくらぐらいですか?」
「あ~、安くて20万ぐらいはするぜ。
モノに寄っちゃ~家が建つぐらいの武器もある。
レアな武器がドロップしたら、パーティー内で奪い合ってが大喧嘩したりするからな! ガハハ!」
つまり……、そんな高価な武器を魔法電話に転用するなんて土台無理な話だった。
****
「ふ~む」
結局、魔法電話は魔力を流す媒体が見つからず、頓挫している。
そんなこんなで1週間が経過した。
まあ何もしなかったわけではない。
『魔法電線』が無くても魔法電話を作れないかと思案して、試作機は作った。
その名も『魔法糸電話ver1.0』。昨日完成したばかりだ。
見た目はまんま糸電話。2つのコップの底をタコ糸が繋いでいる。
ちなみに双方向通話ではない。話す専用コップとと聞く専用コップに分かれている。
仕組みも至極簡単。
話す側のコップの底に声を魔力に変換する魔方陣『譜面スコア』、聞く側に魔力を声に変換する魔方陣『演奏コンチェルト』が仕込まれている。
あとはご想像通り、お馴染みの糸電話のようにタコ糸をピンと張った状態で利用する。
ちなみにタコ糸に大した意味は無い。実は無くても成立はする。
タコ糸をピンと張る理由は明快で、声が魔力に変換された後、魔力は真っすぐ飛ぶ。
タコ糸はレーザーポインタみたいな役割かな。だから、狙いが良ければ無くても大丈夫ではある。
リアル糸電話の糸は、声を伝達する役割があるけど、魔法糸電話の糸は殆ど飾りだ。
昨日の夜は完成したことに嬉しくなって、アムと2人で色々遊んだ。
2階と1階で会話したり、店の中と外で会話したり、糸を伸ばして長距離通話も楽しんだ。
といっても魔法糸電話は一方通行なので、アムは『音玉』と魔法糸電話を併用して一応リアルタイム通信を実現した。
しかし……ここから電話にするってのは大変だ。
魔方陣『譜面スコア』で発射された魔力は直進するみたい。どうやって遠くに届ければいいのだろうか。
大したアイディアも浮かばず、朝を迎えてしまったよ。
****
もっと電話について研究したい。どうにか実現したい。
元通信会社社員としての意地だろうか。
だけど、電話ばかりに時間を費やすわけにもいかない。
収入面が安定してきたとはいえ店はいつも通り開店させないと。
僕はいつも通りランチの準備を始め、アムは店内の掃除をしてくれている。
そして、お見舞いに行って以来初めてタルムンおじいさんがやってきた。
「お邪魔するのね」
「あ~タムちゃんいらっしゃ~い♪」
「いらっしゃいませ」
「体調良くなったの~?」
「うん、歩くぐらいは大丈夫なのね」
テクテク歩いてタルムンおじいさんは椅子に座った。
「タマゴでいい~?」
「お願いなのね」
「は~~い、デン~タマゴ~」
「はいよ~」
僕はいつも通り調理をする。
アムは魔法糸電話をタルムンおじいさんに見せている。
ははは、新しいものを手に入れたら自慢したくなるよね~。
僕は卵焼きバーガーをいそいそ作ることにした。
**アム視点**
「タ~ムちゃん♪ 見てこれ~」
「ん~、なんなのね?」
タムちゃんに糸デンワ見てもらおっと。
「じゃ~ん、糸デンワだよ~」
「なんなのね、それ?」
「え~っとね、デンと二人で作ったんだけど……デンワっていうんだよ」
「デンワ?? 聞いたこと無いのね」
「ん~っと~、説明が難しいんだけど~、とにかく使ってみよ。これ持って~」
「わかったのね」
「それじゃ、それを耳に当てて」
「うん、これでいいのね?」
糸をピーンとさせないとダメなんだよね~。
まあ、アタシにはあんま関係ないけど。
「タムちゃん、体をこっちに向けて~……オッケイ☆」
お客さんいないし~2階まで行こっと。
タムちゃんは……よっし、ちゃんと耳に当ててるね。
「タムちゃ~ん、聞っこえる~~?」
アハハ、タムちゃんビクッとしてる~。戻~どろっと。
「どうだった~?」
「アムちゃんの声が聞こえたのね!」
「えっへへ~どう凄い??」
「も、もう一回やって欲しいのね!」
「は~い」
あ、今度はデンに話しても~らおっと。
「デン~、喋ってみて~」
「ん? あ、ああいいけど。料理中なんだけどな」
「えへへ~」
デンやっさしい~。
糸をピンと張るには距離が短すぎるけど、真っ直ぐタムちゃんを狙えばダイジョブ。
「は~い、ここで喋って」
「はいはい」
デンがアタシの持ってるコップに顔を寄せてくる。
ぷぷ、胸元に近づいてるから恥ずかしがってる。可愛い~。
「ええ~っと、もうすぐ出来ますから待っててください」
「――!!」
またタムちゃんがびっくりしてる。えへへ~。
「どうだった~? すごいでしょー」
「これは、メッセージボックスとは違うのね?」
「うん♪ なんだっけ、リニアタイム通信っていうんだよ!」
「――リアルタイム通信ね」
「それそれ~」
デンがハンバーガーを持ってきてくれた~。美味しいそ~。
**デン視点**
「お待たせしました~」
タルムンおじいさんは糸電話に夢中だ。
「デンちゃん、これは何なのね?」
「え~っと、電話ってやつを作ろうと思っててですねえ、その試作品なんですよ」
「デンワってのはなんなのね?」
「え~っとですね、僕がいた世界では遠くの人と会話できる機械が発明されているんです。
電気を……こっちだと雷魔法に近いのかな。音を雷に変えて、話したい人に届けるんです。
そして届いた雷を音に戻すっていうのが大まかな仕組みなんですけど……」
タルムンおじいさんは真剣な顔で聞いている。
「なるほどなのね……、それがこのデンワなのね?」
「いや~……かなり試作品なんでタルムンおじいさんに使ってもらうにはまだまだ改良が必要なんですよ」
タルムンおじいさんが目をパチパチしている。
「私に? なのね」
「ははは、電話さえあれば、タルムンおじいさんが動かないでも仕事が出来ると思ったんですよね~。
だけど、実用までは問題も色々あるんですよ」
「……これが完成すれば、遠くの人とお話ができるのね?」
「そ、そうですね」
タルムンおじいさん真剣な眼差し。普段の可愛らしいおじいちゃんじゃない。
となりで嬉しそうにハンバーガー食べてるアムとは対照的だ。
そんな時、お客さんが入ってきた。
「あ、いらっしゃいませー」
「もうお昼なのね……」
「す、すいません、また後で」
話しは途中だったけど、ランチタイムはもうすぐだ。
準備をしなきゃ。
**
今日も売り上げ好調で、2時ぐらいまでお客さんがいい感じでやってきた。
ピークタイムの忙しさってのは、大変だけど楽しい。
飲食店の店長ってこんな感じなのかな~。いや~もっと大変かな?
「ねえ~デン~」
「なに? おかわり?」
「あ~、た~べる~! んだけど、タムちゃんから伝言だよ~」
「ん?」
タルムンおじいさんはランチタイムにはこっそりいなくなっている。
そういえば話も途中だったなあ。
「明日は1時間ぐらい早く来るから、さっきの話の続きがしたいだって~」
「あ、そうなんだ。電話気に入ってくれたのかな?」
そんな感じで緩く考えていた昼下がり。今日も1日頑張ろう。
僕は異世界のアレクサンダー! (ソッチのアレクサンダーかよー!) 森たん @moritan
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