第17話 大手通信会社社員、異世界通信業を模索する

フルフルさんが来た日から2日後。


 今日は店の定休日。

 昨年までは定休日無しで毎日店を開けていたんだけど、収入が少し増えたので定期的に休めるようになった。ちょっと感慨深い。


 アムの力が大きいので、休みの日はアムの要望を叶えてあげようと思ってる。

 ダンジョンをせがまれそうで怖いけど。


「さて、今日は何したい?」


「ん~~……。タムちゃんとこ行こ~」


「え? タルムンおじいさんのとこ?」


「うん。お見舞い」


 そういえば腰痛が悪化したとか言ってたな。

 ん~、行って迷惑ってことは無いだろう。


「……そうだな。お昼ご飯作って持って行こうか」


「うん♪」


 お見舞いついでに、タルムン商店の方たちに差し入れしよう。

 お世話になっているし。


 休みの日だけど30個ハンバーガーを作って出かけることにした。



****


 ――タルムン商店――

 ソロモンシティで5本の指に入る大商店。

 馬車を多く保有しており、機動力が自慢。

 ただ、タルムン自身が一線を退いてから、停滞気味。


 現在は息子が社長を継いでいる。


****


 僕の店はソロモンシティの東側にある。

 タルムン商店はソロモンシティ全域にあり、本社みたいな建物は中心地にある。

 ドルゴ商店に仕入れに行くときに通るけどかなり大きな建物だ。


 タルムンおじいさんはというと、タルムン商店の東支店にいる。

 そんなわけで僕の店とタルムンおじいさんの出勤場所は近くなのだ。


「さてさて~」


「ついた~」


 タルムン商店東支店は支店ながらも大きい。3階建ての立派な建物。


 そういえばドルゴ商店とどちらが大きいんだろう。

 販売支店はドルゴ商店のほうが多い気がするけど、他の町にも拠点があるので一言では比べられない。


「いっくよ~」


「ま、待ってよ」


 アムを追うようにタルムン商店に突入した。


**


「こ~んにちわー」


 アムの声が1階に響き渡る。広々とした社内はなかなか静かだった。

 ちょっと……活気がない気がするな。こんなものだろうか?


「あ!!」


 1人の女性が僕たちに気付いて走ってきた。あの髪型はボブカットとかいうやつだ。

 そして盛大に――こけた。


「痛いだーーーい!!」


「だ、大丈夫ですか??」


 う~むこの人立ち直りが早い。ささっと立ち上がりニコっと笑った。


「いらっしゃいませ! 会長をお探しですか??」


「は、はい」


「ただいま、会長はお出かけされていて……というか腰の療養で治療院に行っているんです」


「あ~そうだったんですね」


「でも、もうすぐ戻ってきますよ! 待合室でお待ちいただけますか?」


「は~~い」


 待合室と言っても、個室ではなくフロア全体が見渡せる休憩所みたいなところに案内された。


「会長はよくここにいらっしゃるんですよ」


「へえ~」


「お茶持ってきますね!」


「あ、お構いなく」


 なんか……大事にされてるな僕たち。

 ボブカットのお姉さんはお茶と、美味しそうなお菓子を持ってきてくれた。


「粗茶です」


「ありがとうございます」


「美味しそー!」


 アムは早速お菓子を頬張る。多分……僕の分も食べるだろうな。


「あの~……」


「はい?」


「えっとですね」


 ボブカットお姉さんはモジモジしている。なんだろな?


「メッセージボックスありがとうございました!」


 ボブな髪が飛んでいきそうなぐらい勢いよく、お辞儀された。


「私、マヤと申します。近く結婚するんですが、母に報告することが出来ました」


「おお、それはそれはおめでとうございます!」


「あ~、マヤだ~! タムちゃんが話してたよ~」


「あら~お恥ずかしい」


 そういえば結婚話をしていた気がするな~。本人に会えるとまた嬉しいね。


 マヤさんを交え、待っているとタルムンおじいさんがやってきた。

 見つけたのでアムが手を振る。


「あ~タムちゃん~」


 タルムンおじいさんの顔が明るくなった。


「ん~? あれ~? アムちゃんなのね~」


「えへへ~お見舞いに来たよ~」


「あ~そうなのね~、嬉しいのねえ」


 ほんわかするやり取りに癒される。孫とおじいさんみたいだ。


「体調は大丈夫ですか?」


「うん。大丈夫なのね。腰が痛いだけなのね。腕のいい先生に診てもらってるから良くなってきたのね」


 そしてタルムンおじいさんは同意を求めるようにマヤさんの顔を見た。


「ね、マヤ」


「あはは~、先生ってのは私の婚約者なんですよ」


 マヤさんが照れながら言う。


「へ~、そうなんですね~」


「彼は本当に腕がいいのね。もっと若いうちに出会っていれば良かったのね。」

 まあ昔の無理が今に出てきちゃってるのね。そろそろ引退かもしれないのね……」


 や、やばい。なんか湿っぽいぞ。


「ははは、まだまだこれからですよ!」


「そ、そうですよ! あの人も良くなってきてるって言ってましたよ!」


 焦る僕とマヤさん。お菓子を食べるアム。


「ほっほっほ、心配させちゃったのね。動き回れないけど出来ることを頑張るのね」


「そうですよ! 会長は無くてはならない存在なんですから」


「ほっほ、ありがとうね」


 そろそろお昼時だし、持ってきた差し入れを出すことにした。


「あ、今日は差し入れを持ってきたんですよ」


 収納空間ハンバーガー30個を取り出す。


「いっぱいあるのね!」


「ははは、はい、卵焼きバーガーです。残りも皆さんでどうぞ」


 差し入れは皆さんに召しあがっていただきました。

 もちろんアムも食べちゃったけどさ。タルムンおじいさん喜んでるし結果オーライかな。



****


 僕の店に帰ってくるまで、色々考えていた。

 タルムンおじいさんは凄い人だ。あれだけ年老いても頼りにされ具合が半端ない。

 今回、行ってみてタルムンおじいさん……というか会長の凄さを思い知った。


 お邪魔した時間は1時間強ぐらいだったけど、社員さんが何人か質問に来ていた。

 「こんな状況なんですけど、どうしましょう」的な質問だ。


 タルムンさんは長年の経験を基に、明確な答えを返していた。

 特に判断力が凄い。間髪を容れず「そういうときはこうすればいいのね」答えてくれる。

 上の人からあんなはっきり答えを貰えるんだから、信頼感は半端ないだろう。


 そんなタルムンさんがもっと活躍するための手伝いが……僕とアムなら出来るんじゃないか。 


「なあ、アム」


「なあに~?」


「僕の世界ではさ、電話ってのがあるんだ」


「デンワ??」


「そ、電話」


「なにそれ~?」


「簡単に言うとさ、遠くの人とすぐに話せる道具なんだ。

 メッセージボックスみたいに、持って行かなくてもすぐに話せる道具なんだよ」


 アムは不思議そうな顔をしている。

 いきなり電話の話をされても困るよね。


「アムは遠くの人にでも声を届けれるんだろ? フルフルさんを呼んだみたいに」


「ん~、まあ条件はあるけど出来るかな~」


「普通の人はさ、声の届く範囲でしか話せないだろ?

 だけど電話ってのがあれば、遠くの人と話せちゃうんだ」


「へ~、電話って魔法なの~?」


 電話が何かって説明するのは難しい。


 グラハムベルが発明したと言われる電話だけど、発明された当時と現在の携帯電話では技術的に全くの別物だ。

 まあ、アムに説明するなら黒電話かな。技術的に黒電話が一番説明しやすい。

 電波の説明をアムに伝えられるほど僕の説明力は高くない。


「魔法じゃないんだけどさ……、そういえばアムは声をコピーとかできるのか?」


「コピー??」


「そうそう、例えば『リンゴ』って言ったら、『リンゴ』って声を5回分に増やすみたいな……」


 アムは「リンゴー」と呟いた後、いとも簡単に5個の音玉を作り、僕の周囲に投げつけた。

 そして一斉に破裂させた。


『『『『『リン5ゴ!』』』』』


 5.1CHのスピーカーみたいに周囲からリンゴと言われるとすごい圧力だ。


「ははは、すごいな。これって声に変換した魔力を複製しているのかな?」


「ん~~、まあそんなとこ」


「僕の世界ではさ、音を電気に変換することが出来たんだ」


「電気って、雷?」


「そ、フルフルさんが出してたでしょ」


「うん、ビリビリしてた」


 黒電話の仕組みは、喋る側の声が振動盤を震わせ、その情報を電気信号で聞く側に流す。

 流れてきた電気信号を音に変換するのが簡単な仕組みだ。


「電気ってのは早いから、遠くまで素早く届くんだ」


「ふ~ん、たしかにフルフルは素早いかも~」


「でさ」


「うん、やりたいことはわかるよ。その~デンワを作りたいんでしょ?」


「そゆこと~」


「んんんん~」


 アムは悩んでいる。アムが悩むなんて珍しい。


「あれでしょ? 声を魔力に変えて~、そんでもって魔力を喋りたい人のとこまで届けて~、そいでそいで魔力を声に戻す」


「そうそう!」


 アムは頭良い。理解力の高いギャルだ。


 メッセージボックスを作っているときから頭に思い浮かんではいた。

 リアルタイム通信手段の電話。電気じゃなくて魔力が媒介だから魔話まわかな?

 ん~電話でいいや。


「ね~」


「なに?」


「魔力ってどうやって届けるの?」


「そりゃ~あれでしょ」


「なに~?」


「魔法が伝わる線とかあるんじゃないの?」


「そんなのあるの?」


「……知らない」


「だめじゃ~ん」


「い、いまから探すんだよ」


 電線の魔法バージョンを探さないといけなくなった。

 メッセージボックスで使った『絶魔縁紙』もあるんだから、『魔法電線』もあるだろうと思って探し始めることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る